「けっしてアジャパーにしてはならない(?!)低評価の反戦喜劇映画」二等兵物語 女と兵隊・蚤と兵隊 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
けっしてアジャパーにしてはならない(?!)低評価の反戦喜劇映画
1955年に製作された松竹映画の人気シリーズ第一弾。
バンジュンこと伴淳三郎に花菱アチャコと、東西の喜劇界を代表するトップスターが共演。監督はシリーズ10作中9作を担当した福田晴一。
舞台は戦争末期の昭和20(1945)年6月。
いよいよ敗色濃厚となっても戦争継続の方針を曲げない軍部政府はなりふり構わず召集令状(赤紙)を濫発。
大日本帝国臣民男子ならば年齢もお構いなしだが、その中に自称天才発明家の古川(バンジュン)と妻を亡くし男手ひとつで息子三太を育てる靴職人の柳田(アチャコ)が。同期の二人は同じ連隊に所属することに。
第二次大戦を扱ったコメディ映画としては、同じく松竹が製作し、渥美清が主演した『拝啓天皇陛下様』〈1963〉が有名だが、終始とぼけた雰囲気で物語が展開される同作に対し、本作をコメディとするには内容が辛辣。
兵役検査当日に神経痛を発祥して乳母車で登場する古川も、息子独りを残して行けないと哀訴する柳田も、お国の大事の前では個人的事情など瑣末些事。一切考慮して貰えない。
入隊してからも先輩兵からの理不尽な体罰(というより、単なるいじめ)が繰り返され、上官には私物を奪われ、挙げ句は連隊長の二号通いに付き合わされるなど公私混同、規律はあって無きようなもの。戦争で命を落とした方たちには申し訳ないが、軍の実体がこれでは、そりゃ戦争負けるわと言いたくなる。
連隊長の若林は浮気が本妻(父親が司令官なので逆らえない)にばれそうになると二号のマリ(関千恵子)を古川に押し付け、彼から交換条件に出された柳田の除隊の約束も簡単に反故にする。
息子を案じるあまり脱走した柳田も、彼の息子を練兵場で匿った古川も、規律違反を理由に他の兵士からフルボッコにされるが、その描写が半端じゃない。ホントに喜劇映画?!いやこれ悲劇映画でしょ。それくらい暴行のシーンが生々しいし、三太の境遇が気の毒過ぎる。
原作小説を手掛けた梁取三義は1912生まれ。彼も含め、55年当時の製作関係者は徴兵経験世代。辛酸な場面は彼らの実体験なのだろう。
旧憲法下においてはすべての国民は天皇陛下の赤子(せきし)。新兵たりとも手をあげるなど本来ならもってのほか。こんな加虐体質の日本軍が国外で何をしていたかは推して知るべしというほかない。
作品の終盤、敗戦の報を聞いた隊の幹部や上等兵らは我先にと軍の食料物資に群がるが、これもよく聞く話。
さすがに頭に来た古川は「何が軍の規律だ」とばかりにマシンガンをぶっ放すが、コメディなので誰も死なない。上官らの悪辣振りを思えば、この場面だけペキンパーかタランティーノにやらせたかった?!。
最後は柳田父子と古川、彼の恋人悦子が全員無事で海辺を訪れ、めでたしめでたし。元兵士二人はそこで軍隊の帽子を脱ぎ棄てていく。
笑いのセンスも今とは違うし(というか、まったく笑えなかった)、映像作品としてのクオリティも決して高くない。実際に評価が低いのか、出演者の何人かのプロフィールから省かれているが、喜劇映画としてではなく、反戦作品として高く評価出来る逸品。
この映画を「コメディアンの至芸~喜劇映画特集」でチョイスした京都文化博物館の感性に脱帽。
のちにシリアスな役柄もこなす伴の迫真の演技に加え、悦子に扮した宝塚出身の宮城野由美子や松竹少女歌劇団から転属した若林夫人役の幾野直子、大映ニューフェイスだった関千恵子の美の共演も見どころ。
幾野と関の二人は今もご健在。