「ロケ現場の張りつめた凍るような空気感はCGでは不可能、きちんとスクリーンから伝わりますね。」南極物語(1983) 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
ロケ現場の張りつめた凍るような空気感はCGでは不可能、きちんとスクリーンから伝わりますね。
惜しまれつつ25年7月27日(日)閉館を迎える丸の内TOEIさんにて「昭和100年映画祭 あの感動をもう一度」(3月28日(金)~5月8日(木))と題した昭和を彩った名作42本が上映中。いよいよフィナーレ、本日は高倉健氏氏『南極物語』(1983年)、『昭和残侠伝』(1965年)の二本立てはしご鑑賞。
『南極物語』(1983年/145分)
当時はテレビっ子、特にフジテレビばかりを観ていたいので局をあげての本作の盛り上がりは印象に残っています。
興行成績も『もののけ姫』(1997年)に抜かれるまで15年近く邦画歴代1位、洋画歴代1位だった『E.T.』(1982年)同様、本作には子ども心にプレミアムを感じますね。
初鑑賞は小学校の課外授業の一環として近所の会館で観た記憶があります。
『復活の日』(1980年)でも南極ロケが大きな話題でしたが、本作でも南極ロケを敢行。
特にどこまでも銀世界が広がる壮大で、朝日や夕焼けに照らされて光り輝き変化する南極の大地の美しさをたっぷりと映し出しており、主人公、タロ、ジロと並ぶ本作の主役ですね。
音楽も、神々しいまでに雄大な自然に『炎のランナー』(1981)、『ブレードランナー』(1982)で世界的に名声を得たヴァンゲリスの神秘的なシンセサイザーの音色が実に上手く調和、日本映画史上に残る傑出した名曲。
主役の高倉健氏は『八甲田山』(1977年)での雪中行軍の中隊長も印象的ですが、雪国で寒さを耐え忍ぶ姿、そり犬の樺太犬を置き去りにせざるを得なかった自戒の念、飼い主たちの𠮟責や悲しみに何も言わずにじっと耐える表情など、まさに真骨頂で適役、渡瀬恒彦氏とのコンビも実に良いです。またナレーションの小池朝雄氏の声も痺れます。
タロ、ジロをはじめとする樺太犬たちも、いつも以上に過酷で制限された撮影条件、演技指導、調教もできないなか、よくあれほどの豊かな表情と動きを撮影できたと感嘆します。
今では本作もすべてCGで現実以上の映像表現が可能ですが、ロケ現場の張りつめた凍るような空気感はCGでは不可能、きちんとスクリーンから伝わりますね。