「斎藤耕一の最高傑作」内海の輪 hjktkujさんの映画レビュー(感想・評価)
斎藤耕一の最高傑作
傑作である。1970年に、原作松本清張・製作三嶋与四治・主演岩下志麻は傑作「影の車」を放ったが、その1年後に同じ原作・製作・主演で作ったのがこの作品である。岩下志麻29歳、いちばんきれいな時の、「影の車」同様、当時は、岩下志麻を見せるための映画であった。今までにない岩下志麻の濡れ場を見せようという松竹の下心だったのであろうが、当時はいざ知らず、岩下志麻のヌードも吹替だし、今見ると大したシーンではない。むしろストーリーのほうに逆に魅力を感じてしまう。お互い伴侶がありながら、火遊びをしているうちに、女は本気になってしまい、男は逆にそんな女がうっとおしくなってしまう。男は、蓬萊峡で女が足を滑らせて死ぬように図るのだが、それを女に見透かされてしまいその場を逃げ去る。女は、突き落とされてもよいとまで覚悟を決めてついていったのだが、高所恐怖症のせいで足を滑らせ転落死してしまう。男は逮捕され火遊びの対価を払わされるだろうという余韻を残して映画は終わる。中尾彬がどこにでもいる身勝手な男を見事に演じているし、きれいな岩下志麻の一途さが胸を打つ。どこにでもありそうな情事が壊れるときはいとも簡単に壊れていく様が丁寧に描かれていく。もしも、岩下志麻が夫に裏切られ、やけくそで学生の中尾彬を誘わなかったなら、もしも、3年後に再会しなかったなら、もしも喧嘩した時に松山に帰っていたなら、もしも富永美沙子が余計なお世話をしなかったなら、もしも三國連太郎の優しさを知っていたなら、もしも薄情な中尾彬についていかなかったなら・・・と思うと、岩下志麻が可哀そうに思えるのだ。服部克久の音楽が悲しい女の性を描いて胸を打つ。斎藤耕一の最高傑作である。