「野球シーン以外が面白い」ドリーム・スタジアム 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
野球シーン以外が面白い
野球映画にしては珍しく野球シーンの多い映画だった。ただ、正直野球シーン以外のほうが面白い。
序盤、大阪に出張していた住宅営業マンの萩原聖人が東京本社にいる同僚に電話をかけるシーンでは、実に見事な「音」の編集がみられる。
画面奥で同様に東京本社に電話をかける大阪の上司は、萩原の無能ぶりにひたすら苦言を呈す。かたや呑気な萩原は「大阪は楽しかったよ」などとくだらない話を同僚に聞かせる。要するに萩原と上司の認識のすれ違いを示すコメディシーンだ。
ここではカットのテンポに合わせてポンポンと音の主導権が切り替わるのだが、二人の発話内容はギリギリ推測できる。同一ショット内での音の「ピント送り」に関しても同様で、発話は途中でフェードアウトするのだが、なんとなくその後のセリフが想像できる。作り手側が受け手側の言語感覚を信頼しているがゆえに成立した素晴らしいシーンだ。
仕事を終えた萩原が住宅展示場を去るシーンでは、カメラがズームアウトしていき、展示場がどこかの球場の内部に建設されていることが明かされる。ここも非常に視覚的快楽に溢れている。
さて肝心の野球シーンだが、中盤まではそこそこ面白い。おそらくCG処理している箇所も多いのだろうが、萩原のバッティングシーンをハッキリ描いているところに好感が持てる。ダイエーホークス全面協力による圧倒的ギャラリーも見ていてワクワクする。
ただ、終盤のドリームマッチのくだりが酷い。やっぱり映画とスポーツハイライトの撮影文法は全く異なっているのだということが改めて感じられた。
レジェンド級プレイヤーを次から次へとコンパクトに収めていくスポーツハイライト的なカメラワークが、余白込みで画面設計をしていたそれまでのカメラワークと折り合うはずもない。本作最大のサビであるはずのシーンが結果的に最もつまらないという本末転倒ぶり。
映画で野球をやりたいなら、イニングとスコア、そしておおまかな登場人物たちのポジションを何らかの方法で示し続けなければいけない。かといって野球中継のように簡易スコアを画面端に表示し続けるわけにもいかない。だから野球映画は難しいわけだが…
ラスト、萩原が念の籠った特別なバットでホームランを放った瞬間の演出がダサすぎて笑ってしまった。CGの粒子が飛び散るみたいなの、ポストバブルあるいはポスト角川映画って感じがする。