殿さま弥次喜多 怪談道中のレビュー・感想・評価
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中村錦之介と中村嘉葎雄の兄弟コンビが嵌るミュージカル風幽霊喜劇の東映時代劇の潔さ
中村錦之介と中村嘉葎雄の兄弟が共演した東映娯楽時代劇。制作された昭和33年(1958年)は日本における映画館数が最大ピークに達した年で、言わば映画興行の絶頂期にあった時代です。これ以降テレビの普及が進み映画館の数が減っていく。それは偶然にも、この年の12月23日に竣工した東京タワーによって、テレビの時代が始まろうとしていた転換期に当たります。主演の中村錦之介こと後の萬屋錦之介の映画は、翌年の内田吐夢監督、有馬稲子共演の「浪花の恋の物語」しか観ていません。これは近松と歌舞伎を融合させた舞台劇の優れた様式美が素晴らしく、テレビ見学でしたが深く印象に残りました。これだけの知識で、この作品を語る資格はないのですが、素直に感心するところと面白さに、改めて映画の楽しさを痛感してしまいました。
先ず素晴らしいのは、中村兄弟の息の合った若殿振りであり、錦之介の既に完成された演技、それは時代劇に不可欠な殺陣は勿論、台詞の口上と殿様から町人まで演じる身のこなしの巧さです。二十代半ばの若さの溌剌さと演技の熟度が一つになった、流石の存在感と安定感があります。対して二十歳の嘉葎雄は、兄と比べて演技力は劣るも、何より屈託のない明るさが輝いて爽やかな魅力に溢れている。60万石の尾州と55万石の紀州の殿様役のキャスティングが嵌り、ふたりのドタバタ振りが楽しめる喜劇として立派に成立しています。驚くべきは、この1958年の錦之介の出演作品が13本を数え、つまり一か月に一本以上のペースを1954年のデビュー以来続け、また59年まで6年間は十本以上に出演していることです。日本映画全盛期の映画スターの需要の高さに驚嘆するしかありません。それでいて娯楽作品として手を抜いていない。これは凄いことだと思いました。
今回初めて知る監督の沢島忠は、錦之介の代表作「一心太助」も同時期に演出した名匠として有名とありますが、年齢がこの時監督デビュー二年目の32歳にも驚きました。若くとも短期間で撮影するテクニックと実力を持ち合わせていたのですね。小川正の脚本含め、無駄なショットは無く、テンポ良く物語は進展して、クライマックスの名古屋城でのアクションシーンまで引き付けます。天守閣の上で立ち回る嘉葎雄と城内の階段を一つ一つ上がる錦之介の見せ場の見せ方、そこまでの急展開にみせるカットバックの巧みさ、そして錦之介が変身する映画的な工夫もお見事です。
昭和30年代は、映画館にエアコンが無い時代で夏の風物詩として幽霊映画(個人的には化け猫映画)が上映されていました。そしてダークダックスが歌を披露して出演(但し4人とも清々しい大根)までしています。ミュージカル風幽霊喜劇時代劇のバラエティーに富んだ娯楽映画の潔さ。
ヒロインお小夜を演じた大川恵子の名は初耳です。でも益田喜頓、山東昭子(後に国会議員になる役柄ではない)、田中春男、進藤英太郎と役柄を全うしていて、顔だけは見覚えある悪役専門の役者も何人かは分かりました。これら含め、気楽に楽しめる東映時代劇を身近に感じて満足しました。
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