妻は告白するのレビュー・感想・評価
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別れる決心
パク・チャヌク『別れる決心』のリファレンス元として本作が挙げられていたのをちらほらと見かけていたが、ギミックといいそこに展開されるドラマの顛末といい思った以上に『別れる決心』だった。 本作も『別れる決心』も男が女の心情をうまく見定められないがゆえに悲劇が起きてしまうというものだ。『別れる決心』では主人公の刑事が50年代ノワール映画的なファム・ファタール幻想を終ぞ捨てきれず、殺人容疑者の女を自死に至らしめてしまう。一方本作では主人公の青年が相手の女に過度な潔白さを求め、「人を殺すような人間に人を愛すことはできない」ともっともらしい正論を並べ立てる。文字通り命を賭けた愛情表現を冷たく退けられた女は自ら命を絶ってしまう。 人間を一つの端的なイズムに還元することは不可能だ。人間はそこまで単純じゃない。女をファム・ファタール幻想や潔癖主義に押し込めてしまうというのも、結局のところは神聖視という名のミソジニーである。この無意識の蔑視が招来する悲劇を巧みな脚本と演出で描き出したのが『別れる決心』だが、まさかその半世紀以上前に同じような映画が既に存在していたとは… ただまあ作品の1/3ほどを占める法廷劇のシーンは口頭で述べられたシチュエーションが映像によって淡々と追認されるだけなので正直やや退屈気味。増村保造の映画にしては映像にあまり華がないように感じた。
若尾文子の、高い演技力と肉体のエロチックさが本作を成立させている事が良くわかります
強烈な余韻が残される傑作です 法廷シーンから始まりますが法廷劇ではありません むしろ判決がでてからの終盤こそが本作のテーマです それまでは背景の説明にしか過ぎないのです タイトルどうり妻は告白をします しかし本当の殺人者が誰であったのかはラストシーンで明らかにされるのです 若尾文子の、高い演技力と肉体のエロチックさが本作を成立させている事が良くわかります 女の愛の深さ クライマックスの若尾文子が演じる彩子が幸田の会社にずぶ濡れで訪問する鬼気迫るシーンは伝説のシーンです 強烈です 衝撃ですらあります このシーンは忘れられないものになると思います
悪役・小沢栄太郎
この時代の作品を観るようになって気づくこと。 脇役に素晴らしい個性派がいるということ。しかもその人たちの多くが脇専門。 若尾文子に殺される夫を演じる小沢栄太郎もその一人。この人本当に嫌なオヤジの役がはまっている。 でも私生活ではきっといいお父さんなんだろうな。と勝手に想像していたのだが、なんと山岡久乃と浮名を流し、奥さんは自殺してしまったとか。 ニッポンのおっかさん・山岡久乃をして道ならぬ恋に誘い込むなど並のスケベ男のできることではない。畏怖の念すら覚えるこの俳優は映画史に残る作品を何本も支えている。 溝口健二「雨月物語」主人公・森雅之の妹婿で、武士に取り立てられて出世をするが、最後には身持ちを崩してしまう。溝口作品は他に「近松物語」にも出ている。 小津安二郎では「長屋紳士録」 川島雄三では「特急にっぽん」 成瀬巳喜男では「女が階段を上がるとき」 と名匠との仕事は枚挙にいとまがない。 増村保造の本作でも本当に嫌な夫を、男でも憎悪するほどに(そりゃ若尾ちゃんを不幸にする奴だから当たり前だけど)憎ったらしく演じている。 ザイル切られて当然。むしろそのことで不幸のどん底に落ちていく若尾に同情するのはごく自然な心情なのである。解釈の余地もないほどの嫌な奴を演じられる稀有なる悪役である。
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