劇場公開日 1961年10月29日

「黒い和服で雨に濡れた若尾文子の姿は、強烈!」妻は告白する kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0黒い和服で雨に濡れた若尾文子の姿は、強烈!

2025年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

若尾文子映画祭。3回目となるこの映画祭の、最終日の最終回に鑑賞。
朗らかな若尾文子の〈Side.A〉、濃厚な若尾文子の〈Side.B〉に分類して上映された今回の企画で、4K版初披露の本作は〈Side.B〉の目玉の一つ。

殺人か、緊急避難か。弱い女の不幸か、強かな女の策謀か。犯罪定義への該当性を争う松本清張を彷彿させる法廷劇は、実は、女の情念の恐怖と悲劇を描いた異色サスペンスだった。

製薬会社の総務に所属する(営業のように見えたが…)幸田(川口浩)は、共同開発者である教授の滝川(小沢栄太郎)に委託リベートを支払う業務に加えて、さまざまな便宜を図るために滝川宅を足繁く訪問していた。滝川には年の離れた美しい妻・彩子(若尾文子)がいた。
滝川夫婦と幸田の三人で挑んだ穂高の山岳登攀で事故(事件)は起きたのだった。

綾子に殺意があったのか否か、裁判で示される目撃証言とその背後にある事実の描写が巧みに構成されていて、見ごたえのあるサスペンスだ。
滝川のゆがんだ独占欲に対して幸田の綾子への同情心は純粋だった。だが、裁判で幸田と綾子が不倫関係にあると再三語られることに触発されたかのように、綾子の思いは幸田にのめり込んでいく。
裁判結審後の物語の終盤は、もはやホラーだ。
常軌を逸したような綾子を演じる若尾文子が、恐ろしくも美しい。

大学の研究室で教授の滝川に犯された綾子は貧しい育ちで、経済的な安心を得るために滝川の妻になった。
裁判での検察は、妻の在り方の常識に照らして犯罪を立証しようとする。
高度経済成長の真っ最中、戦後の影がまだ色濃い時代(私が生まれる前年)が舞台で、現代ではとうてい考えられない物語。

川口浩がその後「探検隊」の隊長となって世界中の秘境を旅することになろうとは、この頃はまだ誰も知らない。

kazz
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