劇場公開日 1966年7月16日

「顔に火傷の痕のある妹と兄の物語の方が心に残る」他人の顔 くまぷうさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0顔に火傷の痕のある妹と兄の物語の方が心に残る

2025年5月15日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

悲しい

顔に火傷を負った主人公の男(仲代達也)の自己喪失感や苦悩より、彼が昔見た映画の記憶として現れる、顔に火傷の痕のある女性と兄のエピソードの方が心に残る。この不幸な兄妹のイメージが主人公が昔見た映画の記憶だというのは映画comのあらすじでわかった。
これを読まなかったら主人公の男性の物語とは別の、顔に火傷の痕がある女性のパラレルワールドのようなもう一つの物語だと思ったはずだ。でもこの兄妹のエピソードの方が主人公の物語よりリアリティーがあると思う。

主人公の男の自分の顔を失った苦しみは理解できるのだが、会話があまりにも理論的に過ぎて、どこか心理学の研究のような学問的な感じが強すぎて感情がついていかない。逆に兄妹のエピソードは、妹の孤独感と戦争の予感の恐怖が顔の傷痕にリンクしたような生々しさがあって、妹の心理描写に素直に共感できる。妹は火傷の痕が残る自分の顔から逃げたくても逃げることは出来ない、それは戦争の傷痕から逃げることは出来ないという意味にもとれる。

妹は戦争の恐怖におびえて兄に接吻を求めたように公式の粗筋には書いてあるがそうなのだろうか。妹が今の人生で得たものは自分を普通の女性として見てくれる人がいて、それは兄だったということ。だから唯一自分を人間として認めてくれた兄に妹は愛されたかったのだと感じたが違うのだろうか。最後に兄と愛し合ってこの世界から消えた妹のプライドと哀しみが強く印象に残る。

そしてこの兄妹のエピソードのパラレルワールド的な逆の物語が主人公の男と妻の話のように感じる。主人公は戦争を恐れるような人ではなく、でもそれは強さではなく、彼は戦後になっても戦争に負けたことや罪を認めることが出来ないエリート層の日本人の比喩なのかもしれない。主人公の男は妻を傷つけたのに自分の方が傷つけられたと思っている、主人公の男のこの感じが戦後の日本ということなのだろうか。顔に火傷の痕のある妹は愛を得たが世界から消えて、主人公は愛を得られずにまた戦争に向かっていくという意味なのだろうか。

くまぷう