双生児のレビュー・感想・評価
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男と男と女、憎しみと愛
塚本晋也監督1999年の作品。
まず、東宝ロゴに驚き! 東宝が塚本作品を配給とは…!
ご安心を。作品は安定の塚本ワールド。
明治。医院の跡取りとして、地位と名誉と尊敬、美しい妻りんと共に羨望の日々を送る雪雄。
そんな雪雄だが、りんは出会う前に遭った火事で一部記憶喪失、父母が相次いで死去、そして…
突然現れた瓜二つの男。その男・捨吉は雪雄と双生児で、自分を捨てた両親に復讐。さらには雪雄を井戸の中に落とし、りんとはかつて恋仲であった事を告げる。
雪雄は井戸から脱出しようとするが…。
まず気になるは登場人物の眉毛ナシ。それだけで何処か不気味。
それもその筈。原作は江戸川乱歩の一篇。
塚本ワールドと江戸川ワールド。
一見水と油のように思えるが、これがなかなか奇々怪々な世界に誘う。
石川忠の音楽も素晴らしい。
演者の怪演も強烈。
何と言っても、本木雅弘!
雪雄と捨吉の一人二役。性格のまるで違う兄弟を、見事演じ分けている。
井戸に落とされ、惨めな姿の雪雄。そんな彼に憎悪剥き出しに罵声浴びせる捨吉。もう、圧巻…!
出演作は厳選、常に高い評価、演技力、真摯な役作り…あくまで個人的な意見だが、本木雅弘は日本のダニエル・デイ=ルイスだ。
りょうも慎ましい妻役と思いきや、二癖ある役で、妖艶な魅力を醸し出して印象残す。
その他、江戸川乱歩の世界に合いそうな個性派たちが顔を揃えている。
捨吉の凄まじい復讐。
自分を捨てた両親と恵まれた兄弟に。
醜い痣のせいで、何故自分だけ…?
拾われたのは、貧民窟(スラム街)。
両親も雪雄も貧民窟を蔑む。
俺はここで拾われ、育った。ここで生きていくのは、日々死闘。
そんな時出会ったのが、りん。
肥溜めのような世界で、欠けがえのない存在に。
ある日、面倒を起こし、貧民窟から追放される。
りんとも引き裂かれる。
必ず、迎えに行く…。
りんもりんで生きていた。
そんな時出会ったのが、かつて愛した男とそっくりの男。
あちらは激しい性格、こちらは優しい性格。
妻となる。
そう、実はりんは、記憶喪失ではなかった。
かつての男を待ちながらも、今の夫を愛し…。
復讐を果たし、雪雄に成り済ます捨吉。
が、女は別の男だと分かる。
やっと、迎えに来てくれた…。
しかし捨吉は、自分は雪雄だとシラを貫き通す。
捨吉が手に入れたかったのは、女の愛か、雪雄の全てか。
全てを奪われ、落ちたかに思えた雪雄だが、井戸から脱出する事に成功。隙を付き、捨吉の首を絞める。
狂気な捨吉の姿は、自分の心の奥底に潜むもう一人の自分なのかもしれない。
その時の雪雄の鬼のような形相、流した涙が忘れ難い。
再び、穏やかな日々を取り戻した雪雄。
彼が向かったのは…
貧民窟。
もう一人の自分が育ち、それまで蔑んでいた貧民窟の人々を診る。
償いのように。
雪雄にとっても、捨吉にとっても、りんにとっても、一筋縄ではいかないが、数奇な運命と救済。
ある男と男と女の憎しみと愛。
恐ろしくも全く新しい、塚本作品。
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