劇場公開日 1970年10月24日

「乱高下するヘリコプター」新宿アウトロー ぶっ飛ばせ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5乱高下するヘリコプター

2023年8月16日
iPhoneアプリから投稿

『八月の濡れた砂』の藤田敏八が手がけたアウトロー映画。将来安泰のボンボン息子が実家と縁を切って無頼生活に勤しむ、という筋立てはボブ・ラファエルソン『ファイブ・イージー・ピーセズ』を想起させるが、おそらく制作時期はほぼ同時。ニューシネマ的な問題意識がいかにグローバルに共有されていたかが伺える。

まず冒頭がいい。刑務所を出た渡哲也がタクシーで新宿に向かう。しかし獄中にいた数年間のうちにすっかり様変わりした新宿(このあたりが本格的に開発され始めたのは60年代末期〜70年代にかけてのこと)の摩天楼を一瞥すると、「やっぱり横浜だ」と進路を変更する。開幕早々のヒリついた疾走感に陶酔する。

渡哲也になぜか付きまとう原田芳雄は都内に巨大な邸宅を構える良家の子息。原田はブルジョアというスティグマを抱えた自分に対するコンプレックスからか、根っからの無頼気質な渡に強く惹かれるが、それを察されないようあくまで対等なフリで彼に接そうとする。なんともブルジョア仕草的だ。愚連隊に拉致された妹(もちろんカタギ)を救い出した時にも、泣きじゃくる妹を引っ叩くさまを愚連隊に見せつける。俺はお前らみたいな半グレとは違うんだぞ、という必死の自己証明のようだ。他方渡はといえばいきりたつ愚連隊の面々にも余裕綽々の態度。

どだい命を顧みない渡と、アメリカン・ニューシネマのような屈折した感傷に浸りたがる原田が共に死の匂いが漂うほうへと向かっていくのは必然だが、その結末は滑稽だ。思わず死に損なってしまった命、思わず手にしてしまった大金。団地の上空をゆらゆらと乱高下するヘリコプターが彼ら(いや、たぶんそう思っているのは原田だけだろう)のやりきれない気持ちを代弁する。

因果