「鈴木則文タッチの傑作です」車夫遊侠伝 喧嘩辰　KIDOLOHKENさんの映画レビュー（感想・評価）

ヤクザが殴り込むとか、可愛い子分が死ぬとか殺されるとか・・これはその種の最高の作品だ。それから、これは明らかに 鈴木則文 作品なのであって 脚本家が監督を凌駕している。彼は、監督デビューの前に「十一人の侍」の脚本にも携わっている。両方とも傑作である。素晴らしい監督というのは、それ以前に素晴らしい脚本家だということがこれらから見て取れる。
この作品の前半は、ただただ主人公のワイルドで危なっかしく、やることに腹が立つが、それでいて心配になるキャラクターで観客を引き付ける。何をしでかし、どうなっていくんだろうという不安や期待、それに一つ一つのエピソードの面白さ だけで引っ張っていく。真ん中辺でやっと敵役が登場し・・そのあとは、まるっきり ありきたりのパターンだ。でも面白かった。 特に・・
彼が撃たれた後、切符がアップになって汽笛の音が響くところは・・ まさにあのタッチは鈴木則文 のタッチ。あのシーンがとてもグッときた。そしてこのどうにも成長するようには見えなかった男が、 物語を通して徐々に成長するところがうまく描かれていたと思う。
そして、鈴木則文作品に共通なのは、女の描き方がうまい。女の幸せというものを願って書いているとのが伝わってくる。もしかして鈴木則文は若いころに身近な大事な女性を亡くしているのでは・・・そんなことを想像したりする。
主人公 親分、 彼女、 敵役 ・・・全部 キャラが立っていて配役が嵌っていてとても良かった、そして 藤純子がとても美しかった。藤純子作品の最高傑作でもあると思った。明治という設定もぴったりはまっていて本当に明治時代に撮られた作品のような錯覚を覚えた
この作品は全く有名ではないが 鈴木則文の最高傑作の一つとして 私は推してみたいと思う。 少なくとも、ファンは絶対に見逃してはいけない作品であろう。