「前進と後退のクライマックスにある映画美と田坂監督のジレンマ」五人の斥候兵 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
前進と後退のクライマックスにある映画美と田坂監督のジレンマ
戦意高揚の醜さと国威発揚の美しさを兼ねた、危うい時局の日本映画。この田坂作品には、”戦争と人間”についての感慨なしでは論じることが出来ない、とても深刻で抜き差しならない映画制作の状況が迫って来る。上官の命令通りに人殺しを遂行する兵士を、戦争のかっこよさとして描けば扇動的なメッセージしかなく、映画が単なる情報に堕ちていく。それを避けるためには、兵士一人ひとりの人間本来のまなざし、吐息、言葉を映像美に昇華させなければならない。それが作品の主軸になれば、戦争の愚かさを訴えかける普遍的な表現芸術になりえるのではないだろうか。この作品には、それがある。ある村落を占拠し駐屯した部隊の軍内部の描写が、人間の営みとして説得力を持っている。勿論ショットがひとりの兵士をクローズアップすれば、日本国の為に命を捧げる主張が語られるし、追い詰められたまなざしが戦争の残酷さを物語る。また部隊長が見せる戦いに挑む男の意地は、戦意高揚の何物でもない。登場人物を温かく見詰める田坂演出が、それを強調しているのも確かだろう。
五人の斥候兵の敵の情勢を調べる前進と後退の移動撮影のクライマックスが、そのまま戦争映画に挑んだ田坂監督のジレンマを具象化したような感慨を抱かせて、危険な映画と身構えていたにも関わらず、不覚にも感動を覚える。軍国主義に凝り固まった部隊長に飽きれ果て軽蔑しても、実直な日本兵士の犠牲的な姿を憂国の精神で描く演出の素晴らしさが勝った映画美は、素直に認めたい。
戦前の大作「土と兵隊」と、この「五人の斥候兵」は、戦争と日本人の歴史をもう一度客観的に見直す遺産として推奨するが、実は田坂監督では「爆音」「路傍の石」が好みであり、特に「路傍の石」は日本映画の傑作と評価している。