「逃亡侍」獣の剣 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
逃亡侍
フジテレビのドラマディレクターから映画監督へ。『三匹の侍』に続く、五社英雄監督の映画監督第2作。1965年の作品。
開幕、草むらに隠れている一人の浪人。彼は追われている。
追っ手の刺客が迫る…。
“逃亡者”ならぬ“逃亡侍”的な今作も娯楽性は充分だが、ただそれだけには留まらない。
追われる理由。城代家老を斬った罪。
それは藩の為と信じ、次席家老に騙されて…。
地位を狙う次席家老の企みが事の発端ではあるが、自らも出世という甘い誘惑に溺れて…。
逃亡中出会った一人の男。山奥の川で採れる砂金で一攫千金を狙う。
砂金を狙うは他にも。ある侍とその妻。
侍は藩命で砂金を採っている。
彼もまた出世が目的。自らの欲に浸かり、妻をも担ぎ出して…。妻は不満を抱えている。
藩に利用された男が、藩に利用されている男と出会って…。皮肉めいたものを感じる。
仕える者と、下す者。
見返りはあるのか、ただ利用されるに過ぎないのか。
何の為に仕えるのか。
翻弄される男たち、女たち。
時代劇の枠に収まらない。現代の社会構図にも通じる。
『三匹の侍』ではニヒルな役所だった平幹二朗の本作での精悍な役柄もいいが、田中邦衛の個性、加藤剛&岩下志麻の悲哀が光る。
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