劇場公開日 1953年9月15日

雁(1953)のレビュー・感想・評価

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4.0囚われた女の自立、主体としてのお玉

2022年8月6日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1953年。豊田四郎監督。森鴎外原作の名作を映画化。父と二人貧しい生活をしている娘は金持ちの男から求められて結婚することに。ところが仲介したオバサンの話とは違って、男には妻があり、しかも呉服屋ではなく高利貸しだった。高利貸しの妾となった自分に嫌気がさす娘は、妾宅の前を通りかかる大学生を意識し始め、蛇を退治してもらったことをきっかけに近づきになるが、、、という話。おぼこ娘が大人の女性になっていく難しい役どころを演じる高峰秀子がすばらしい。 原作の最終場面には、岡田たちが不忍池の雁に向かって石を投げたら当たってしまった雁が死ぬ、という印象的な場面があり、雁=お玉(宿命から逃れられない女)という読解が成り立つのだが、この映画にその場面はなく、雁は自発的に飛び立っていく。ここでの雁はまず第一に日本を離れてドイツに留学してしまう岡田であるし、また、未造との関係に区切りをつけようとしているお玉でもありうる。逆に、仕事に出たはずの未造がふいに戻って来てお玉の岡田への思いを知って口論となるという原作にはない場面があり、原作ではやや突飛なお玉の行動(岡田に思い切って声をかける)の動機が説明的に示されている。 原作にあったのにない場面と原作になかったのにある場面を考慮すると、この映画では原作よりも主体としてのお玉に焦点があたっているといえるだろう。もちろん、原作ではお玉と岡田の物語の外に語り手が実存してるのだから、お玉が主体であろうはずもないのだが。そして、しつこいようだが、主体としての(主体になりきれない存在としての、という意味も含む)高峰秀子がすばらしい。

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