からっ風野郎のレビュー・感想・評価
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そこまで酷くはない
三島の演技が酷いことで有名らしいので怖いもの見たさで見てみたが、三島が酷いというよりは周囲のプロ俳優たちのレベルが高すぎるという印象だった。かといって三島の演技を完全擁護するわけにはいかないんだけど、それは単に「演じること」に慣れていないからで、演じる役柄の人格についてはほとんど完璧に掴んでいたように思う。
たとえば出所日にパトカーの中で威勢を張る三島に「顔が青いぞ」と警官が言う。そのときの彼の恐怖と虚勢が相混じったなんともいえない表情はなかなか見事なものだ。脚本家が三島由紀夫の人格から逆算してああいうキャラクターを創り上げただけかもしれないが。
話しとしてはよくあるヤクザ映画という感じで、やはりヤクザは軽率に赤ちゃん用品コーナーに立ち寄るべきではないなと改めて思った。ラストシーンでは、絶命寸前の三島の進行方向とエスカレーターの進行方向が逆であるがゆえに、シリアスともコメディともつかない異常空間が醸出される。ヤクザとカタギの間を曖昧に揺れ動き続けた三島に相応しい最後であるといえる。
女をビンタしまくる三島由紀夫の姿
作家三島由紀夫が主演それもヤクザの二代目を演じる!というどうにも驚きの映画。1960年大映。
どういう経緯でこの企画が成立したのか知らぬが、まったくもって無茶である。
演技経験の全くない三島由紀夫は冒頭から出ずっぱり。最初は棒読み演技ひどいなと思っていたがずっと見ていくうちになんだが好きになっていく奇妙な味わいがあった。なんだろうこれ。
作家としてもう名声を得つつあった三島がヤクザ役、それもしょっちゅう筋肉ムキムキにした体をアピールという倒錯した感があるが、物語は割合にまともで映画として見れるものとなっておりました。
監督は増村保造、共演は若尾文子・船越英二・志村喬などビシッと一流どころを揃える充実ぶり。どうやら監督は三島をしごいたらしい。さすが増村保造。
若尾文子の異様に頑固で意思の強い女性がイカス。デートシーンがほのぼの。
船越英二のインテリヤクザもいいキャラ。
ラストのエスカレーターシーンは必見。
人間、この非合理的な生き物
三島由紀夫主演作という、記録としても貴重な作品。
他の増村作品と比して、精緻さにやや欠けるという印象は否めないが、若尾文子他の俳優陣が作品を崩さぬよう引き締めていると思う。
作品を貫いているのは、人を愛するとは?という問いに対する、人間の終わりなき彷徨なのではないだろうか。
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