KAMIKAZE TAXIのレビュー・感想・評価
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2人の特攻隊
センデロルミノソ
バブルによって日本人は変わってしまった
1995年公開
本作冒頭でその前年が日本の政治的混乱について紹介している
何故その映像が始まるのだろうか?
本作もまたバブルをテーマにした映画であるからだろう
自民党が初めて下野した細川政権の誕生と、その金まみれの汚職による崩壊もまたバブルが産んだ産物であったと今から見れば良く分かる
バブルの徒花は日本の精神を蝕んでしまったのは間違いない
上から下まで日本人全てがバブルによって舞い上がり精神の深いところまでが汚染された
その頃に日本人は何か変質してしまったのではないのか?
そして海外で育った日本に戻ってきた日本人のほうが日本人の精神を保っていたのでは無いのか?
冒頭で差別されていると説明される日系人達の方が、日本人らしい日本人なのではないのか
これが本作のメッセージであり、テーマであったと思う
右翼的政治家、ヤクザ
極めて日本的な存在であるはずのものが、バブルを経たのち、彼等が日本人に見えなくなっている
政治家は金にまみれている
ゴルフ場で新しいヤクザの担当が韓国語を解するのか試したりするのだ
彼の屋敷も極めて日本的だ
しかし中身は嘘で塗り固められた人間だ
恐らく日本人ですらないのかもしれない
ヤクザはビジネス化しており戦前のヤクザの世界とは切り離され、会長はジャズを愛好してサックスをクラブで演奏する程だ
1995年の少し前だったか、千葉県のある巨大物流センターを視察したことある
各所に掲示してある表示板が日本語と英語でないどこかの言語で書かれていた
何語なのか質問すると、ポルトガル語だという
その物流センターではブラジルの日系人達が多数働いていたのだ
バブルの好況による極度の人手不足が、このような光景を既に生み出していたのだ
東京の居酒屋で注文を取りに来た半纏を着た若い店員が日本語を話せずエキゾチックな顔立ちで、日系人だったり外国人であることに気付かされ驚いたのもこの頃が初めてだった
いまでは当たり前の光景だ
本作では日本の美しい光景を意識して撮影している
その中で寒竹は本当の日本人らしさを示していくのだ
神風タクシーとはかってスピード違反上等のタクシーのことをそう呼んだそうだ
寒竹のタクシーの社名はそよかぜタクシーだ
そして神風特攻隊、ペルーの猛烈な季節風と絡みあわせて物語を紡ぎ出し、テーマを持たせただけでなく、それを娯楽作品として面白く成立させている
監督のその技量はものすごい力だ
ラストシーンにはカタルシスまであるのだ
朝日の逆光の中に佇む寒竹は侍の姿そのものだ
ケーナの音は尺八に似ている
異なる風土で奏でる曲調はまるで異なっていても、寒竹の吹くケーナは侍が尺八を吹くのと変わりはしないのだ
紛れもない傑作なのは間違いない
"SOYOKAZE TAXI"
そよかぜのように、カミカゼの如く
原田眞人監督1994の作品。
元は2作品のOVだったが、評判の良さから1995年に劇場公開。
自分が見たのは一本の作品にした“インターナショナル・バージョン”で、もし相違点があったらご理解を。
開幕のクレジットが本作を物語る。
政治家、ヤクザ、出稼ぎの日系人…。
一見何の関わりも無さそうな彼らが交錯する事もある。
悪徳政治家の土門。今なら大炎上どころか大問題レベル。
特攻隊など戦争肯定派。慰安婦についても肯定。
画に描いたような右翼派で、男尊女卑。
SMなど女遊びも異常。
そんな土門の女の世話をする事になったチンピラの達男。
恋人が土門にいたぶられ、それをヤクザ組長・亜仁丸に抗議するも、逆に恋人は殺されてしまう。
達男は復讐を決意。土門の屋敷に大金がある事を知り、仲間と共に押し入る。
金を奪う事に成功するも、あっという間にバレ、達男は組から追われる身に…。
序盤はOVらしいヤクザ・アクション。
が、始まった達男の逃避行はまた別の作風に。
逃避行中出会った一人の男。
ペルー生まれの日系人で、タクシー運転手の寒竹。
彼に大金を払い、母の墓がある伊豆へ向かう…。
ハリウッドが『グリーンブック』なら、日本は本作!
チンピラと日系人タクシー運転手のロードムービー。
性格も真逆。荒々しい達男に対し、穏やかな寒竹。
無論達男は追われ続けている。遂に居場所を突き止められるも、達男は銃で反撃。
寒竹はそれを目撃していたのにも関わらず、達男を乗せる。
疑う達男。
それに対し寒竹は、「お客さんだから」。
芽生えていく奇妙な友情。
道中の日本各地の風景も相まって、心地よさすら感じた。
寒竹が吹くペルーの伝統笛の音色、劇中音楽も耳に残る。
達男は復讐を諦めた訳ではない。
組に乗り込む。その姿、死を覚悟した“カミカゼ”。
そして達男は…。
“そよかぜ”だった寒竹の心に静かなる“カミカゼ”が吹く。
単身土門の屋敷に乗り込む。そして数奇としか言い様がない寒竹と土門のある関係…。
達男と自らの生い立ち。寒竹は二つの“復讐”を…。
ヤクザ・アクション、ニューシネマ風のロードムービー、日本映画らしい風情感…。
不釣り合いなジャンルが見事にバランス良く合わさり、予測不能で一つのジャンルで括れないエンターテイメントに。
さらにここに、戦争、新興宗教、日系人なども織り込む。
不思議な感じありつつ、エネルギッシュで、面白くて、インパクトも充分。
日本映画もこんなに面白い映画を作れる!
近年も優れた作品を発表し続けているが、ハリウッドで培った原田監督の手腕が光る。
いつぞやセルフリメイクを仄めかしたが、それでもいいし、またこういうジャンルでの作品が見たい!
キャストも皆、ハマり役。アンサンブル色が強いが、特に印象に残ったキャストを一人一人。
まず、役所広司。生粋の日本人なのに日系ペルー人なのはツッコミ所だが、そこは演技力でカバー。実直な性格、たどたどしい日本語、ペルーで家族に起こった悲劇を語るシーンは胸に迫り、日本人ではなく本当に日系ペルー人に見えてくるからさすが! “そよかぜ”に見えて、内に秘めた“カミカゼ”も感じさせる。
高橋和也も熱演。若く荒々しい“カミカゼ”のチンピラだが、次第に寒竹と心を通わせ、哀愁と情の“そよかぜ”も滲ませる。
内藤武敏も悪徳政治家を憎々しく、寒竹と対峙したラストは凄みたっぷり。
中でも異彩を放っていたのは、役名・亜仁丸も風変わりなミッキー・カーティス。土門には頭が上がらないが、クレイジー&コミカル。一番ヤバい奴かも。ラストシーンは必見!
前々から評判は聞いていたが、このほど初鑑賞。
確かに面白かった!
カミカゼレベルの力作!
原田眞人よ、このサイズに戻れ。
20年振りに見た、貪るように観た
はまる
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