劇場公開日 1958年2月26日

「天使のような田中絹代」悲しみは女だけに talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0天使のような田中絹代

2021年3月1日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

照明が凝っていて目を見張った。夕立の場面は、完全に舞台のセットと舞台の照明だった。美しい屋根に激しい雨音。かなりの遠景で、陰翳の中の家屋に女性二人。上手は立っている京マチ子、下手は座っている田中絹代。夕立があがったら照明が変わり、軒からぽたぽたと雨のしずく。二人のたたずまいと居ずまいも変わる。光と陰が作り上げる映像がこの上なく美しかった。

久し振りに故郷に戻ってきた秀代=田中絹代のいでたちが、あまりにステレオタイプなアメリカ帰りの満艦飾で唖然とした。でも、だんだんと分かってくる。これは精一杯の「故郷に錦」。写真だけのお見合いで渡米し、日系1世として朝から晩までお百姓として働きづくめ、戦争中は収容所、英語はほとんどできず、向こうでは乞食みたいな格好をしてると彼女は問わず語りに話す。秀代の親やきょうだい、故郷への純粋で懐かしい想い、広島の原爆投下、その後も沢山の人が亡くなっていることもちゃんと分かっている。この滞在が自分にとって最後であることも。

そんなこともつゆ知らず、お金の無心をする甥と姪。秀代は驚きながらも優しく断る。ても、弟の苦しみ、ブラジルへ夫と共に渡る姪(京マチ子)の悲しみを秀代は理解する、なけなしのお金を渡して。秀代は、想像を絶する苦労をしたに違いないから。

田中絹代、秀代の夢に出てくる母の乙羽信子(美しい)、弟の元・妻の杉村春子、そして京マチ子。この4名の女優の存在で映画がキリリと締まった。悲しかったけれど、いい映画だった、とても。

talisman