「スマフォのない世界、戦後16年」女は二度生まれる 菜野 灯さんの映画レビュー(感想・評価)
スマフォのない世界、戦後16年
1961年作で、当時の時代の温度感ってこんな感じだったのかなって思う。戦後16年、皆が明るい。東京は活気にあふれていて、皆、すぐ仲良くなり友達になっているような雰囲気。
映画館の前で、17歳の少年が余ったチケットを、主人公の女性に売り、そのまま一緒に映画をみて仲良くなったり、いつも通りですれ違う男子学生に、料亭の女性が声をかけて、一緒に散歩してお昼に誘ってみたりと。いまでは考えられないが、そんなこともあったのかな。って考えた時、当時はスマフォがなかった。携帯電話さえなかったから、目の前の人の温度感を感じていたし、目の前の世界がすべてで、隣近所は顔見知りだし、料亭に行くにも誰かの紹介で行くわけだし。
それに、一億総中流社会って言われる前の時代だから、それこそ成金のように戦後の経済成長の走りで、羽振りがよくなったおカネ持ちが、東京の料亭で働く芸者を愛人に囲うことも普通にあったんだろうなと。それも、まったく外連味がなく、明るい。囲うものも囲われるものも。
当時はタバコを吸うひとも多くて、冷房も完備してなくて、汗水の臭いもしていたろうし、濃密な空気が流れていたんだなと。それに東京と地方の違いってめちゃくちゃあっただろうし、当時の上野だ、新橋だ、銀座だといっている中で、そういえば、当時は自分の父母たちはちょうど20歳くらいだっただろうけれど、それとは別世界だったはずだ。
いまの日本人、スマフォとマスクで他者を拒絶してるかのようで、むしろ、スマフォの中に生きているようで、当時とずいぶん、様変わりしてしまったと思えた。
若尾文子、当時28歳。笑顔が自然で、笑ったときの口のかたちがとても自然なきれいさがあり、大女優になるひとって、こんな自然に美しい笑顔になるんだって思った。