「筋道を立てて選ぶ自分の人生」男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
筋道を立てて選ぶ自分の人生
シリーズ40作目。
昭和最後の寅さん。
本作のタイトルは言うまでもなく、当時大ベストセラーとなった俵万智の歌集『サラダ記念日』から。
本作は見てなくともタイトルだけは聞いた事ある方も多いのでは? ひょっとしたら、シリーズで最も有名なタイトルかも。
俵万智の歌も要所要所で引用されている。
旅先は、信州小諸。バス停で老婆と知り合い、一晩お世話になる。
亭主とは随分前に死に別れ、子供たちは東京住まいで、一人暮らし。
笑わせていると、突然誰かに手招きし始めるおばあちゃん。死んだじいさんがそこに居るという…。
まさかのホラー!…なんてね(笑)
意外と怖がりの寅さん。
翌朝、町の病院から女医が訪ねてくる。
実はおばあちゃんは身体が悪く、入院しなければならないのだが、終の住処は我が家と決め、頑なに拒否。
が、寅さんが説得し、入院する事に。
半ば強引に入院させた事に悩む女医。
その美人女医さんに一目惚れ。
今回のマドンナ、女医の真知子を演じるは、三田佳子。
本作の前に大河ドラマで女医を演じていたらしく、女医役がぴったり。美しい大人の女性像も寅さんマドンナにぴったり。
寅さんを家に招き、東京で早稲田大学に通う姪の由紀もやって来て、由紀が短歌好きという事もあって楽しい短歌談話を。
由紀役は三田寛子で、W三田のWマドンナ。
やがて寅さんは柴又へ、由紀も東京に帰る。
途端に寂しい独り身になる真知子。
旦那とは死に別れ、一人息子は東京の母親の元に預けている。
母親からはちょくちょく再婚の話が。
今の女医の仕事を辞める事は出来ない。
一方で、仕事に忙殺し、自分の人生や女としての幸せを犠牲にしている。
仕事か、自分の人生の幸せか。
三田佳子が苦悩や悲哀、大人の女の魅力も滲ませる。
しんみりする作風のようだが、勿論寅さんらしい笑いも。爆笑ポイントは2つ。
柴又に帰った寅さんは、由紀を訪ねて早稲田大学へ。講義室で居眠りして目が覚めると、産業革命の講義中。始まる寅さん爆笑講義。シリーズ20作目『寅次郎頑張れ!』で中村雅俊が演じた“ワットくん”が話題に。
真知子も東京の実家に里帰りし、由紀と共に柴又を訪ねる。待ちくたびれた寅さん、「遅いんだよ、バカ!」と怒号。実はこれ、遅い博に対して言ったつもりなのだが、そこにやって来たのが真知子たち。あっちもびっくりだが、寅さんはもっとびっくり。
楽しいひと時も束の間、真知子が信州小諸に戻ってすぐ、おばあちゃんがいよいよ…。
寅さんも駆け付けるが、間に合わず…。
殊更ショックを受ける真知子。寅さんの肩に泣きすがる。
再び悩む。人の死に立ち合う時に悲しく苦しい気持ちを抱えたまま女医の仕事を続けるか、辞めて平穏な自分の人生を生きるか。
そんな時、急患が…。
本作から“とらや”の店名が“くるま菓子舗”に、新しい従業員の三瓶ちゃんが登場。
シリーズも40作代になると、OPの夢が無かったり、御前様もラストにワンシーンだけの登場になったり(笠智衆の体調不良)、満男も受験生として悩みに悩む。
そんな満男に対し、伯父さんからまた一つ、名言が。
満男が聞く。「どうして勉強するのかな…?」
「人間長い間生きてりゃ色んな事にぶつかるだろう?
そんな時俺みたいな勉強してない奴は、振ったサイコロの目で決めるとか、その時の気分で決めるしかない。
でも、勉強した奴は、自分の頭で筋道を立てて、こういう時はどうしたらいいかと考える事が出来る」
名言集『寅次郎サラダ記念日』より。