「最高!素晴らしい傑作です! だって日本映画だもん、なんて言い訳が全くない 世界水準のカーレース映画です!」栄光への5000キロ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
最高!素晴らしい傑作です! だって日本映画だもん、なんて言い訳が全くない 世界水準のカーレース映画です!
カーレース映画の金字塔「グラン・プリ」みたいな映画を撮りたい!
そんな映画の中でも最も本家に近づいていると思います
グラン・プリは1967年日本公開されました
本作はそれに遅れること約2年の1969年の公開です
カーレース映画ですからまずレースシーンがどれだけ迫力ある映像で撮れているかが最重要です
車載カメラが捉えた映像はグラン・プリを良く研究してありほぼ遜色ないものです
レースシーンも、モンテカルロラリー、日本グランプリ、サファリラリーと3つのレースが展開されるので舞台もレース内容も変わり飽きません
そのレース展開も、事故あり、他チームとの駆け引きあり、自チームの内情ありと起伏豊かです
そこに男と女の物語が絡みます
この人間模様とレースシーンとのバランスが、カーレース映画の難しいところですが、本作はどちらもしっかりと描かれています
脚本の出来が良く、日本映画に有りがちなよいシーンを撮りたい誘惑に負けた無理やりな展開もありません
冒頭は、ヨーロッパのどこかの浜辺での朝焼けの美しいシーンで始まります
デビッドリーン監督作品を思わせる美しさです
まるでフレディ・ヤングが撮ったのではと勘違いしそうなぐらいの美しいワイドスクリーンのカットが幾つもあります
その冒頭のシーンは、ジプシークルー時代の二組の男女と黒人男性一人が楽しそうに朝焼けの渚でふざけあっているシーンです
自分にはそのシーンが1967年の名作「冒険者たち」を思い出させました
その映画は二人の男と一人の娘なのですが
本作はグラン・プリ+冒険者たちという構造なのだと思います
外国人俳優達の配役も素晴らしい
怪獣映画に出てくるような変な外国人ではなくて、本物の映画俳優です
演技力もあり配役も納得の姿形です
特にアンナ役のエマニュエル・リヴァが良いです
40歳になろうとする普通の生活を望む女性の心理が見事に姿形に現れていました
車にぶつかって死んでしまう牝鹿の話が、自分達の関係性の例え話であり、それがまた終盤で現実として繰り返される展開は、彼女の持つ雰囲気が見事に効果を上げていました
ジュマを黒人で設定した脚本には感嘆しました
21世紀なら何の不思議もないのですが、あの当時白人だけのものであったモータースポーツで活躍するアフリカ出身の黒人という設定はものすごい先進性のある設定であったと思います
ジュマが英雄となる姿は、ケニアの黒人の人々が自分達に自信を得て、これから自主自立して発展していくキッカケになるだろうと思わせてくれる
シーンです
21世紀の人種問題にまで視線は届いていると思います
音楽は黛敏郎
アフリカ風のテーマ曲が耳に残り、様々にアレンジされた劇伴が重厚なオーケストレョンで展開されます
どんな洋画の劇伴にも負けてないクォリティです
惜しい点は、折角素晴らしい迫力ある車載カメラ映像が撮れているのに、しょぼいリアプロジェクションでの僅か数秒の短いカットが2箇所あります
たったそれだけなのに、全体の高いクォリティーの印象を下げてしまっていること
状況説明に欲しいカットだとは思いますが、こんなことならなくした方が数倍ましです
もうひとつは、終わり方が単にサファリラリーの終わりというものであったこと
これは、冒頭の海岸でシーンに相当するものであるべきでした
2組の男女と黒人男性のそれぞれの物語も完結したと思わせるものであって欲しかったと思います
ピエールとアンナ、伍代と陽子
それぞれの関係の結末
ジュマが、地元の黒人達の英雄となったその先
こういうことの方向性が伺えるものが、美しい冒頭のシーンと呼応する美しいシーンとして展開される
青春の日々の終わり、人生の夏は終わり収穫の秋になる
そういう終わり方が観たかったものです
かといってそれで減点しても、余裕で星5個です
それくらい素晴らしい映画です
クライマックスでのカタルシスの爆発には不覚にも涙がでてしまいました
日産自動車のレーシングチームのラリー監督やピットクルー達が、遠いアフリカの地で大奮闘する様は胸が熱くなります
埼玉県警の機動隊が銭形警部に率いられて世界で奮闘するのと似た感覚です
というか本作の方が古いのですが
石原裕次郎35歳の格好良さは当然です
それよりも特筆すべきは浅丘ルリ子29歳の美しいことです!
海外シーンでその美貌の映えること!
外国人俳優達に混じっても全く違和感も遜色もないのです
衣装もセンスのある素敵なものばかりでした
ピエール・カルダンをモデルにしたと思われるファッションデザイナーも登場します
陽子は、日本人ファッションモデルの草分け松本弘子をモデルにしているかも知れません
劇中では東急百貨店でのファッションショーでした
ピエール・カルダンは確か高島屋だったと思います
1969年の東京のシーンも素晴らしい!
クラブのインテリアなど凄い
4周くらい回って、最高に現代風です
建て替え前のホテルオークラも登場します
あの有名な広々としたロビーもチラリと写ります
カフェドランブルの珈琲も登場します
ヘリコプターで移動したのは武蔵村山の日産自動車のテストコースと思われます
その工場自体がいまはもう20年も昔に閉鎖され、その跡地にはイオンモールが建っています
遥かな時間が経ったものです
まったく今は昔です
1969年公開の意味
敗戦して失意の底にあった日本が復興を遂げ、高度成長して、今度は戦争ではなく産業でも文化でも、再度世界に挑戦して成功を収めつつある姿
それが本作に表現されてあるのです
そしてそれは70年代、80年代と次々に実現されて行ったのです
自動車だけでなく、電機も、ファッションも、珈琲だって、産業でも文化でも学問でもどんな分野でも世界と互してリードして行けるのだという、日本人の将来への自信と希望が詰まっています
眩しいほどです
それは21世紀の日本から失われたものです
失われた宝石の輝きです
栄光への5000キロ
もちろんサファリラリーの走行距離の意味です
しかし21世紀の私達が観ると、それは「栄光の昭和」という意味のように感じられるのです