劇場公開日 1967年6月3日

「戦争賛美映画? いいえ、反戦映画でした」あゝ同期の桜 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 戦争賛美映画? いいえ、反戦映画でした

2025年8月28日
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鑑賞方法:VOD

あゝ同期の桜

1967年6月3日公開、白黒映画

日本の戦争映画は、「日本のいちばん長い日」などがある東宝の8.15 シリーズが有名ですが東映も戦争映画を撮っています

1980年 二百三高地
1982年 大日本帝国
1983年 日本海大海戦 海ゆかば

上記の80年代の三本が有名ですが、60年代にも東映戦記映画三部作と呼ばれている作品があります

こちらの方が実は21世紀の今日にまで影響が残っている作品群であると思います

下記がその三本です

1967年 ああ同期の桜(本作)
1968年 人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊

1968年 あゝ予科練

本作はその最初の作品です1967年6月3日公開
東宝の8.15 シリーズの第1作「日本のいちばん長い日」も同年8月3日公開です
つまり、この年から多額の予算をかけた戦争映画が数年間毎年東宝と東映から公開されるようになったのです
一体どうして?
終戦後20年以上過ぎて、ようやく戦争が生々しいものでは無くなってきたからでしょうか?
復興を遂げ東京オリンピックを成功させ、国際社会にも復帰して高度成長真っ只中です
1970年の大阪万博はバラ色の未来を謳歌するものになると確信されていました
過去を振り返って、今日の平和と繁栄の有り難みを知ろうというものだったのでしょうか?

そして、戦後生まれ、空前のベビーブームでできた団塊の世代が20歳になろうとしていました
1947年が出生数のピークの年で、1967年はその戦争を知らない子供達が成人を迎えた年だったのです
彼ら、戦争を知らない子供達に、戦争を語り継ごうということだったのだと思います「戦争を知らない子供達」という歌は1971年の大ヒット曲です
その歌でも♪戦争を知らずに僕らは育ったと歌詞にあります
ですから、すべからかくこれらの戦争映画は反戦のメッセージを根底にして製作されています
戦争を扱った映画だから戦争を賛美した作品だと非難するのはあまりにも、表面的な見方だと思います
本作も根本にあるのは反戦のメッセージです

劇中でも歌われる「同期の桜」は超有名
21世紀生まれでもご存知の方が多いと思います
戦時中の本当の軍歌だとばかり思っていましたが調べてみると少し違っていました
1939年、昭和14年に発売された「戦友の歌(二輪の桜)」が元歌の替え歌なのだそうです
その元歌はヒットもしなかったものだそうですが、海軍兵学校の生徒が自分たちのこととして替え歌にしたところ、彼らの心情に大変合っていたので大いに歌われるようになり、さらには指導教官を通じて、航空隊だけでなく、潜水艦の部隊にもひろまったそうです
戦後は1961年に一度レコードになったようですが、やはりこの映画と連動したであろう1967年松方弘樹盤が大ヒットことにより世間一般にまで広く知られることになったものとおもわれます

物語は、戦後1966年に刊行された海軍飛行予備学生十四期生の遺稿集に基づく神風特別攻撃隊で戦死された方々の群像です
つまり同期とはもともとはこの海軍飛行予備学生の同期という意味であるわけです
第14期は1944年昭和19年採用です
本作の冒頭は1944年昭和19年10月21日に神宮外苑でおこなわれた学徒出陣壮行会のシーンからはじまります
満20歳の学生は軍隊に徴集されたことが紹介されます
海軍に配属された者は海軍予備学生ということになり、飛行科の予備学生は飛行機の操縦訓練をうけます
中には年嵩の学生もおり、妻が赤ちゃんを抱いて面会に来るのですが一目だけしか時間がないというシーンもあります
既にサイパンは同年7月に陥落しており本格的な本土空襲や沖縄への米軍侵攻は目前でした
反撃しようにも、海軍の戦力は既に尽きており、神風特別攻撃隊なるものが、同年10月から始まっていました

劇中、指導教官は「お前らは、消耗品だ」と学生達に言い放つのです
爆弾を抱いた飛行機を敵に向けて飛ばすだけの部品に過ぎないという意味です

「特攻隊に志願を希望する者は一歩前へ!」というシーンがあります
全員が即座に前に出るのかと思いきや、誰も出ません
え?とおどろいたあと少し間を開けて全員が前に出るという流れになります
これは監督の演出で、彼等が決して心から志願していたわけではなく、様々な葛藤を持っていたであろうことを表現していたのだと思います

ラストシーンは沖縄戦での神風攻撃です
猛烈な対空砲火の中、敵艦に突入する直前、映像はストップモーションとなり、
「その瞬間彼等はまだ生きていた」とテロップがでます
そして映像はまた動きはじめるのですが、特攻機は敵艦には当たらず海面に激突してしまうのです
「この時から僅か4ヶ月、戦争は終わった」とテロップが再度出て映画は終わります

特攻隊で死んでいった方々の遺書を読んで、その純粋な思いを深く尊重しても、それでも、どのように言い繕ってもなお、結局のところ、犬死にだったではないかとの主張だったと思います
これを反戦メッセージと言わずして、本作を戦争賛美映画だと批判するのはどうかしていると思います

戦争を知らない子供達の団塊世代に、本作の反戦メッセージは強く伝わったと思います

21世紀生まれの人にもそのメッセージは十分に伝わるものだと思いました

あき240
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