劇場公開日 2007年10月13日

僕がいない場所のレビュー・感想・評価

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4.0一人で生きる少年をリアルに

2008年6月17日

泣ける

悲しい

知的

 社会主義から民主主義に移ったポーランドで近年、子供に対する虐待が社会問題になっているそうです。  男に夢中になる母親から、愛情を得られず放置された少年・クンデル。  実話を元にした話で、柳楽優弥にカンヌ最年少男優賞を得させた「誰も知らない」の、いわばポーランド版と言えます。  しかし本作のほうが母親の愛情はより薄く、クンデルの気骨はよりしたたかのように見えます。  母親は男に依存し、誰かに愛されていなければ寂しくていられないと言います。  しかし、それより遥かに愛情を求めているのは、他ならぬ我が子のほうなのです。  許してくれと泣きつく母親をクンデルは振り切って、一人で生きていく決心をします。  川べりの廃船に住み着き、空き缶や鉄くずを拾って売り、現金を手に入れる。  大人の施しは受けず、時には商店からパンと缶詰を盗み、口にほうばる。  まさしく人間が「生きる」ということの原点を、見せつけられるような気がしました。  天然の光と陰を映し出した映像に、「ピアノ・レッスン」のマイケル・ナイマン奏でる、切々としたピアノの旋律がかぶさります。  自然に、淡々と、生命の営みというものを感じさせます。  クンデル役の少年は監督が国中から探し出した、演技経験のない素人ですが、やけに大人びた表情を見せ、観る者の心を引きつけます。  大人のような子供に対して、周囲にいるのは子供のような大人でした。  自力で生き抜いているクンデルですが、どんなに強そうに見えても、子供にとって一番必要なのは親の愛情です。  親の愛がなくて生きていける子供がどこにいるでしょう?  拙著「境界に生きた心子」にも書いた言葉ですが、強がっている子供はいても、強い子供はいないのです。  最後にクンデルが得たものは、他の誰でもない、まさに実存的な自分自身の居場所だったのでしょう。  これは近代化を経たポーランドだけの問題ではなく、普遍的な人間のテーマです。

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シンコ