「すべてが影に沈む街で」ミレニアム・マンボ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
すべてが影に沈む街で
群衆には顔がない。それゆえ大都会の中にありながら人は孤独を感じる。『平面論』で松浦寿輝がそんなことを言っていた。
ヴィッキーの暮らす台北の街は常にうっすらと翳っている。そこに集う人々の表情はほとんど見えない。ダンスミュージック、喝采、夜伽、すべてはどうでもいい雑音として空間を滑り落ちていく。孤独の重力に唯一抗うように上昇する紫煙は空中に溶けて消える。
夕張は天国だ。ヴィッキーは童心に帰ったように雪と戯れる。しかし天国は虚構に過ぎない。夕張は映画の街。したがって虚構の街。そこは彼女のいるべき場所ではない。台北への帰還。
異国の斥力に、あるいは自国の引力に抗うようにヴィッキーは東京へ向かう。言葉は通じず、想い人は群衆に紛れてしまう。留守電の音だけが虚しく響く部屋の中で、彼女は長い夢からゆっくりと醒めていく。
この映画はヴィッキーの回想である。そこではヴィッキーは自分のことを「彼女」と呼ぶ。
遠い昔の話。
コメントする