「地獄から蘇った“少年”」ブラジルから来た少年 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
地獄から蘇った“少年”
グレゴリー・ペックとローレンス・オリヴィエの2大名優の共演。
監督フランクリン・J・シャフナー、音楽ジェリー・ゴールドスミス、スタッフも超一流。
アカデミー3部門(主演男優=オリヴィエ・編集・作曲)ノミネート。
話はブッ飛んでいるが、スリリングで面白さ充分。
なのに、これが日本劇場未公開とは信じられない。
1978年の隠れた傑作サスペンス。
パラグアイで、ナチスの残党の会合が秘密裏に行われる。首謀者は、ナチスのマッド・サイエンティスト、ヨーゼフ・メンゲレ。
会合の内容を、ナチス・ハンターの青年が録音。ベテランのナチス・ハンター、リーベルマンに伝えるが、殺されてしまう。
当初は意に介していなかったリーベルマンだが、かくしてメンゲレの指令が下される。それは…
各国で、65歳の公務員の男性を2年半以内に94人殺せ…という奇妙なもの。
一体、何の為に…?
ナチスと因縁あるユダヤ人…?
が、特定の条件以外、共通点は無い。
一人、また一人と殺されていく。
さすがに不審を感じたリーベルマンは調べ始める。
謎で全く接点無いと思われたが、次第に共通点が。
いずれもある特定の年齢で女性と結婚。それぞれ養子を貰い、その子供たちが皆、色白・黒髪・青眼の双子以上にそっくり。
父親の性格は威圧的、母親は息子を溺愛、子供はわがままに育ち…。
全く同じ条件・環境下。
メンゲレはかつて人体実験も行っていた。
リーベルマンはある科学者から決して絵空事ではない驚くべき科学の話を聞き、遂に全ての謎が一つに繋がり、ある結論に達する。それは…
クローン人間計画。
そのクローンで復活…いや、すでに産まれた子供というのが、アドルフ・ヒトラー。
クローンによるヒトラー復活と、ナチスの復興。
それこそ、メンゲレが目論む恐るべき陰謀と計画であった…!
下手すりゃ今続編が公開しているおバカナチス映画のようなトンデモ怪作になる一歩手前。
しかし、実在の人物やフィクションやノンフィクションが、単なるSFもしくはありえねー!設定に、妙なリアリティーを与えている。
歴史上最悪の悪行を犯したナチスなら、こんな計画を本当に…と、ついつい思ってしまう。
今見ても鮮烈で強烈。今でこそクローンは実現可だが、当時の人にはどれほどの衝撃だった事だろう。
実際、物議を起こしたとか。
また、本作公開中、メンゲレは存命。この翌年死亡。ブラジルで事故死とされているが…。
本作はただの紛い事の映画か、疑惑のリアルか…!?
序盤は謎だらけで、なかなか全貌が見えない。見る側もリーベルマンと同じ視線。
徐々に明らかになっていく衝撃と戦慄。
シャフナーの演出はエンタメに徹し、グイグイ片時も飽きさせない。
ペックの狂気の怪演、オリヴィエの飄々さも併せ持った味わい。
ラストでは文字通り、老体に鞭打って取っ組み合い。ある意味、必見!
両名優さすがの存在感だが、二人以上に、ヒトラーのクローンの少年が一際強烈な印象残す。
美少年だが、何処かヒヤリと…。
人物史上最悪の独裁者のクローン。
愚かで恐るべき“悪魔の計画”。決して産まれてはいけなかった“悪魔の子”。
しかし…、産まれてきた子に罪はあるのか…?
あの独裁者と全く同じ状況下にしたからといって、必ずしもヒトラーになる訳ではない。
実際、メンゲレの計画は失敗に終わった…ように思える。
が、メンゲレの計画は成功した…ようにも思える。
ラストの少年のあの笑み…。