「衝撃の実話。一定のテンポなのに惹きつけられる不思議。」ファーゴ きーとろさんの映画レビュー(感想・評価)
衝撃の実話。一定のテンポなのに惹きつけられる不思議。
音楽が良かったです。牧歌的でありながら物悲しい曲調が舞台や内容に合っていて、印象に残りました。
展開はわかりやすく、リアリティがありました。メリハリなく常に一定のテンポで展開していくけれど退屈さはなく、むしろ惹きつけられるような独特の雰囲気を持った作品です。実話らしい、客観的で一歩退いたような画面作りが良かったです。1987年当時の雰囲気を作っている、そこそこ最近の作品かと思っていました。23年前だと知ってびっくり。
警察官に車を止められたあたりからはずっと鬱鬱として胸苦しく、どういう気持ちで観ていたらいいのかわからなくなりました。
鑑賞後にだいぶ気分が沈んだのですが、なんと!本作は本当はフィクションらしいですね!やってくれる…しかし救われました…。冒頭のテロップも含めてフィクションって…そんなのあり?実話でも脚本賞って取れるんだーとか呑気に思っていました。まさに衝撃の「実話」。さてはコーエン兄弟、相当の曲者だな?
ヒントはポールバニヤン(ホラ話の象徴)とマイクヤナギダの話(嘘)にあったんですね。マイクは話の大筋に関係がなく違和感があったので、なるほどな〜と思いました。あとはカールがお金を隠したことは誰が証言したのかも疑問に思っていました。ある意味どんでん返しの作品ですね。おもしろい。
フィクションだとわかるとブラックコメディの見方もできますね。パンケーキ好きな寡黙な大男とか、部下にもらったコーヒー捨てるとか、身代金値切ろうとする父親とか。初見はほぼ真剣な顔で観ていましたが、次からは笑って観られそうです。
荒唐無稽に見えて、悪事が泥沼化していく様は現実でも起こりうるかもしれないと思わせられます。この絶妙なバランス、上手いですね。
ポールバニヤンの像が撮り方によってやけに怖く見えてビビりました。
あと終盤の木材粉破砕機はエグいですね…。また雪に赤が映えること。実際に事故では起こったことがあるらしいです…考えただけで恐ろしい。
演者みなさん表情が良かったですね。特にピーターストーメア扮するゲアのあの何を考えているのかわからない薄気味悪さ、怖さはなかなか出せないと思います。
カールというかスティーヴブシェミが聞き込みの度に「全体的にヘンな顔」と言われていたのは少し笑ってしまいました。特徴的ですよね、好きです。シェプにぶん投げられるところもおもしろかった。『レザボア・ドッグス』のピンクよろしく金にがめついお喋りな小悪党、最高でした。
フランシスマクドーマンドも自然な演技ながら存在感があり、格好良かったです。役作りでミネソタ訛りの英語を習得したそう。ガンダーソン夫妻は素敵な関係でしたね。癒しでした。
ウィリアムメイシーのにっ、と音のしそうな愛想笑いも好きです。情けない役なのですが、その普通の人っぽさに自然と同情して観ていたので展開が辛かったです。
フィクションとはいえ、どんなことでも隠そうとしたり、小細工しようとするのは良くないですね。誠実でいたいと思わせてくれる作品でした。