太陽は、ぼくの瞳 : 映画評論・批評
2000年4月29日更新
2000年5月13日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
「運動靴と赤い金魚」のマジッド・マジディ監督最新作
監督がマジディで、盲目の少年を主人公にした作品というと、前作「運動靴と赤い金魚」に似た作品を連想されるかもしれないが、マジディはまったく違った視点からドラマを作り上げている。前作では少年が問題を最後まで独力で解決しようとすることによって、その唯一の証人となる観客は、社会を新鮮な視点で見つめ直すことができた。しかし新作の主人公は必ずしも盲目の少年だけではない。
少年と父親、祖母がそれぞれに背負う苦悩とそれを何とかしようとする行動が、次第に深く結びつき、象徴的なドラマに発展していくのだ。息子と同じように恵まれない少年時代を送った父親は、目の前にある自分の幸福をつかみとりたいと思う。それを知った祖母は、父親に代わって孫を守るために自分を犠牲にし、彼女の死が父親に重要な試練を課す。
美しい自然は盲目の少年を優しく包み込むかに見えるが、父親は心の底で息子の命がその自然の力によって奪い去られることを望んでいる。しかしそれが現実のものとなりかけたとき、祖母の死が父親の心を揺り動かし、彼に試練を与える。そして苛酷な試練のあとで静かに訪れる奇跡、それはこの三者の心がひとつになる瞬間でもあるのだ。
(大場正明)