シャドウ・オブ・ヴァンパイア : 映画評論・批評
2001年8月15日更新
2001年8月11日より渋谷シネ・アミューズほかにてロードショー
現実と虚構の奇妙なねじれが恐怖と笑いを誘う
ムルナウの「吸血鬼ノスフェラトゥ」製作の舞台裏を、ユニークな解釈で描くこの作品には、何とも不思議な魅力がある。俳優のシュレックが本物の吸血鬼なら、映画はドキュメンタリーに近いものになるところだが、正体を知っているのは監督のムルナウただひとり。そんな設定から、現実と虚構の奇妙なねじれや転倒が次々に生みだされていく。
スタッフは、吸血鬼になりきっているシュレックに驚嘆しているうちに、餌食にされてしまう。ムルナウは、俳優を演出する振りをしながら、吸血鬼の衝動を抑えることに四苦八苦している。シュレックは、不要だと思える脚本家に食欲をそそられるかと思えば、わがままなスターのように、船での撮影や移動を拒む。ウィレム・デフォーの異様な形相と怪演がまた、実によくはまっている。
こうしたねじれや転倒が、サバイバルの恐怖と笑いを誘うユーモアを、ドラマのテンションを下げることなく、最後までしっかりと絡み合わせてしまう。それは単に怖くて可笑しいということではない。あくまで特殊な状況を描いているかに見える映画が、象徴的なレベルでは、映画作りに関するより普遍的で辛辣なドラマにもなっているのだ。
(大場正明)