マドモワゼル : 映画評論・批評
2002年11月1日更新
2002年11月2日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
逡巡や罪悪感はなく、ドライなアバンチュールでもなく
小さな薬局に同時に入ってきた女と男。女はシェイビングクリーム、男は生理用ナプキンを求め、互いに伴侶のいることがわかる。それだけで終わるはずだったのに、女が忘れ物をしたことから、2人はその日一夜を共にする……。
偶然を媒介にした恋、一夜限りの不倫。これらはいったい何度、映画に描かれてきただろう。この映画のモチーフはすべて前に観たことのあるものばかり。だが、不思議だ。観終わると「こんな映画、観たことない」と思わされてしまうのだから。
女はセールスマネジャーで、男は即興劇団の一員。平凡な日常を送る彼女が、男の即興芝居に加担し「共犯」したことから距離が縮まり、情熱の火がともる。翌朝、女はカフェのウェイターに「マドモワゼル」と呼ばれる。偶然と即興に彩られた24時間が彼女を確実に変えたのだ。もしかしたら発端となった忘れ物は、彼女の無意識の産物だったのかも……。
同じ束の間の不倫でも「マディソン郡の橋」のように切羽詰まらないのが、フランス映画の粋なところ。逡巡や罪悪感のない自然さもいい。かといってドライなアバンチュールでもない。映画は彼女の回想から始まるが、その遠くを見るような眼差しは、まさしく「マドモワゼル」のものなのだ。
(田畑裕美)