しびれのレビュー・感想・評価
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音楽もなく、会話も最低限
東京フィルメックス映画祭にて鑑賞。
監督の自伝的映画ということだけど
どこまでが、フィクションだろうか…
新潟の寒さ、心の寒さ、が手に伝わってジンジンするようで、まさにしびれを感じる作品。
主人公のだいちの未来が少しでも幸せであることを
願わずにはいられなかった。
だいち役北村匠海らもよかったが
宮沢りえと永瀬正敏の熱演がまた華を添えていた。
宮沢りえの演技が凄すぎ
第26回東京フィルメックスのコンペティション部門出品作である本作を、有楽町朝日ホールで鑑賞しました。先日、ユーロスペースで観た「火の華」の舞台挨拶で、同作の小島央大監督の聞き手として登場した内山拓也監督の新作で、その際に本作の紹介があったのがきっかけでした。
本作は、DVや育児放棄に加え、初等教育すら受けられない貧困環境で育ち、父親による母親への暴力を目撃したショックで声を失った少年・大地の物語。これでもかと不幸が降りかかる展開は直視するのが辛いほどでしたが、その迫力は圧倒的でした。冬の新潟の分厚い雲がもたらす薄暗く鬱屈した雰囲気は、大地の心情を見事に映し出していました。
劇伴を一切使わず、タバコの火の音、缶ビールを開ける音、波や車の音といった生活音を際立たせることで、まるでその場にいるような臨場感を作り上げていたのも印象的でした。
大地役は、子どもから大人まで4人の俳優が演じ分け、最後に登場する北村匠海は短髪に入れ墨という役作りで、北村本人らしさを完全に消していました。むしろ子役のほうが“北村匠海らしい”面影を感じたほどで、舞台挨拶でも本人が「北村匠海を消した」と語っていたのは本当でした。また、北村が出演していることもあり、先日観た「愚か者の身分」の前日譚のような印象も受けました。
上映後のQ&Aでは、劇伴を使わなかった理由について監督が「撮影前から決めていたこと」「人間も自然の一部だと考えた」と説明。また、タイトル「しびれ」は、終盤の大地と父親がお互いに頭を下げる場面に“痺れる”ような感覚があったことに由来すると明かしていました。聞きたいことを代わりに聞いてくれる観客がいてくれて助かりました。因みに劇場公開は2026年だとか。
俳優陣では、大地の4人以外に、とにかも母親役の宮沢りえが圧倒的な存在感を発揮していました。DV被害者として同情を誘いつつも、育児放棄して働かざるを得ない母親役を好演。その複雑な心理を見事に表現し、やせ細った外見はかつての“激やせ時代”を思い起こさせるほどで、棺の中の姿も含め、女優魂を感じさせました。2023年公開の「月」、今年のNetflixドラマ「阿修羅のごとく」など、近年の宮沢りえの凄みを再確認する演技でした。DV父役の永瀬正敏も、終盤の弱々しい姿で物語をさらっていく力量はさすがの一言でした。
気になった点を挙げるなら、大地が海で自殺を図った際、子供の頃に知り合ったロシア人・イワンが偶然通りがかって助ける場面。何年も前に会っただけの大地を覚えていた上、ひと気のない海に偶然現れるという設定は、ちょっとご都合主義に感じました。奇跡は一度きりという私の勝手ルールには反しないものの、もう少し伏線が欲しいところでした。
以上、今年大活躍の北村匠海のフィルモグラフィに、また新しい1ページが加わった作品でした。
そんな訳で、本作の評価は★4.4とします。
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