「笑い、心痛め、涙し、微笑む。しみじみいい映画」ペンギン・レッスン 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
笑い、心痛め、涙し、微笑む。しみじみいい映画
英国人教師トム・ミッチェルが住み込みで赴任してきたのが、
ブエノスアイレスの英国系名門ハイスクール
(原作によると「セント・ジョーンズ・カレッジ」。英国のパブリックスクールをモデルにした全寮制男子校で、1898年創立。南米の中等教育の最高峰と目されていた)
ちなみに初対面で校長から「ペットは禁止」と言い渡されるフラグ。
が、受け持った中学生のクラスは、英語の授業(語学というより英文学)をまともに受けようとしない。
シェイクスピアとかシェリーとかには、まあ、興味ないよね。
でもトムは、ナナメからものを見る癖がしみこんでいるようで、
校長からラグビー部の顧問をやってくれと言われた時には、
「ラグビーのことは何も知りません。ていうかラグビーは大嫌いです」とか言っちゃうんだが、
校長が「なぜ」と訊くと「ボールが楕円だから」。
その後の場面を見ると、スローフォワードは知ってるようだし、
ラグビーを知らないというのは、どうやら真っ赤なウソ。やる気ないだけ。
「あとは君らだけでやれ。で、なぜラグビーボールは楕円なのかディスカッションしなさい」とか言ってサボりに行っちゃう。
授業も最初から、生徒がふざけていようとお構いなし。
喋ることは喋った、以上、って感じで。
* * *
時は1976年。
人気はあったが経済は破綻させたフアン・ペロン大統領が2年前、在職中に死去、
副大統領だった妻イサベル・ペロンが「病気療養」、
反政府組織・人民革命軍はもちろん政府軍にも、抑えが効かなくなったんだろうか、
情勢は不安定の度を増し、3月24日、政府軍幹部によるクーデター。
トムの赴任後ほどなくして学校は、軍事クーデターのために1週間休校となる。
これで舞台がととのう。
トムはその休暇がラッキーとばかりに、
とっととラ・プラタ川の対岸、隣国ウルグアイの保養地へ遊びに行く。
そこの海岸で、重油まみれのマゼランペンギンに出会ってしまったのである。
で、ここから、
どうやってアルゼンチンにペンギンをつれて戻るか、
そしてどうやって校内でペンギンを飼うか、
という問題に直面する。
そのうえ、
軍部独裁政権の陰も、覆い被さってくる。
さらには、
現在のトムの人生観に陰を落とす過去の話があって。
ここからが本題なんだけれど、ざっくりまとめちゃうと
笑い、心痛め、涙し、微笑む――しみじみいい映画、でありました。
そして、ペンギンのカウンセラーがめっちゃ優秀w
* * *
ちなみに原作は、
タイトルは同じくThe Penguin Lessons(出版社はBallantine BooksであってPenguin Booksではないw)、
邦訳のタイトルは「人生を変えてくれたペンギン―(2017ハーパーコリンズ・ジャパン、2019ハーパーBOOKS、2025新装改訂版)――なぜか邦訳の方が安かった。
原作によると、
トムがこの学校の求人に応募してアルゼンチンに渡ったのは、彼が23歳独身の時。
親戚の何人もが「英連邦」のあちこちに住んでいたのに影響を受け、
自分も海外へ行きたい、と子どもの頃から思っていて、
それも、親戚の誰も行ったことのないところへ行きたい、
ということから、南米という選択になったとのこと。
だからその人柄は、人生に疲れの見える映画のそれとは全く違うし、
ペンギン発見の経緯に女性は関与していないらしいし、
軍事独裁政権の影響が及んだのも、映画独自の創作らしい。
でも、
「ローマ法王になる日まで」
を観ると、
こういうことがいつ起きてもおかしくない状況だったんだろうと思う。
なんたって、
軍事政権の拉致による行方不明者は、
いまだに3万人にのぼる、というんだから。
しかも同様のことは、
ブラジルでもチリでもその他の南米諸国でも
起こっていたわけで……
* * *
さらにちなみに、
フアン・サルバドールというのは
「カモメのジョナサン」のスペイン語版だそうで。
それから、
字幕でニシンと訳されてたスプラットは、
変だと思って調べたら、ニシン属の小魚。
サバを捕るためのスプラット(=タイを釣るためのエビ)という諺があるそうな。
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