「一にも二にも“聞き役”フアン・サルバドールの懐のデカさがあってこそ」ペンギン・レッスン TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
一にも二にも“聞き役”フアン・サルバドールの懐のデカさがあってこそ
今週は米国映画レビューサイトで評価が高い本作をチョイス。俳優としてのみならず、コメディアン・声優・プロデューサー・脚本家としても高い評価を受ける多彩な才能の持ち主・スティーヴ・クーガンが主演を務めます。
1976年、英語教師・トム・ミシェル(スティーヴ・クーガン)の新しい赴任先はアルゼンチン・ブエノスアイレス。当時、アルゼンチンでは人民革命軍による反政府活動が盛んになり、首都であるブエノスアイレスもそこかしこににきな臭さが伺えます。生徒は富裕層ばかりの名門寄宿学校において、イデオロギーをにおわせるような授業や言動は一切タブーと校長・バクル(ジョナサン・プライス)から忠告されますが、そもそもミシェルはどこかしら冷めた雰囲気があり、授業に集中しない生徒たちに対しても本気にはならずに見て見ぬふり。すると、間もなく軍によるクーデターが起こって学校も休校となり、不意の休暇にトムの選択は隣国ウルグアイへの逃避行。クラブでのナンパが功を奏し、いい雰囲気で女性と二人砂浜を歩いていると、なんとそこには重油まみれで打ち上げられたペンギンが…
如何にも英国紳士然としたトムに対し、生まれや立場が違う人々との微妙なズレに可笑しさを感じるも、トムにはどこかしらに隠し切れない捨て鉢な態度が見受けられます。そして現地では、その後「汚い戦争」と呼ばれる軍事政権下による“活動家”と見なされた者に対する誘拐さながらの逮捕など、不条理極まりない状況。外国人として不干渉を決め込むトムにも、一歩外に出ればちょっとしたことで銃を向けてくる軍人や、逮捕をチラつかせる役人の存在、さらには急速なインフレの波など無視しきれない状況。そこに突如自分の前に現れ、思わぬ流れで面倒を見る羽目となったペンギン“(ピーター改め)フアン・サルバドール”の存在を介すことで、徐々に周囲の人々との関わり方にも変化が起こり、胸襟を開いて話すことが出来、さらには自ら身を挺して言葉を上げるまでに変わっていきます。なお、公式サイトの情報によれば、ペンギンのフアン・サルバドールは主に2羽のマゼランペンギンが担当しているとのこと。可愛い容姿のペンギンは見ているだけで癒されますが、大変に利口さも伝わる名演技でしっかりと本作における“もう1羽の主役”として成立しています。
原作は主役のその人、トム・ミシェルによるノンフィクションが基となっており、ここで語られる「汚い戦争」に対する運動は今も続く現在進行形であって“知るべき事実”としても観る価値を感じた本作。終盤の展開には“予想外”の悲喜交々もあり、欧米での大ヒットも大納得の良作と感じます。大変為寒い日でしたが、クスッと笑えるユーモアとじんわりとする感動で温かい気持ちに包まれる秀作。お薦めです。
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