劇場公開日 2025年11月21日

「映像美、遊び心、そして映画愛」落下の王国 4Kデジタルリマスター TSさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 映像美、遊び心、そして映画愛

2025年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

斬新

映画は、モノクロ無音のスローモーションのシークエンスから始まる。
一体どんな場面を撮っているのか、視点を変え、画角を変え、被写体との距離を変え、途切れなく繋がれる画によって徐々に明らかになっていく全貌。最後はつり上げられた馬の画で終わる。冒頭のこの場面を目にしただけで、傑作の予感がする。

カラーの映像に切り替わってからは、噂に違わぬ「本物の」映像の美しさに終始魅入ってしまった。
物語の世界を彩る赤、青、黄、緑、白、黒・・・。原色なのにケバケバしさがなく、エキゾチックで品がある衣装。バックに映える美しく雄大な自然と圧巻の伝統建築物。どこを切り取っても一枚の画として成立するように作ったかのような徹底的で尋常でない「見栄え」への拘りを感じる。

橋から落ち、夢破れ、恋に破れて自暴自棄になった青年が、木から落ちた少女に語る「つくり話」。話の筋はやや強引で、子供だましのもののようにも感じるが、青年一人が即興で紡いだ作り話は、悲劇的な結末に終わろうとしていた。しかし最後に(また落ちて怪我した)少女がもう一人の作り手として参加したことで、青年の生きる力を呼び覚ますことになった。怪我の功名とはこのことか!

少女のしゃべり方と動きが愛らしく、好奇心と遊び心に溢れている。象、猿といった動物が活躍するのも子供心を意識した演出だろうか。

そしてラストのモノクロ映画スタントシーンのカット集は、CGもVFXも無かった時代に、観客を驚かせ、楽しませようと身体を張って撮影に挑んだスタントマンやスター達へのリスペクトに溢れていた。

個人的には、バリのダンスシーン、姫の蓮の花の衣装がとても印象的だった。ターセム監督とデザイナー石岡瑛子の、自然や歴史、文化への真摯に向き合うスタンスや畏敬の念がクリエイティビティの発揮に繋がったのだろう。

映画館のロビーでスタッフに声を掛けられて手に取ったパンフレットは、壁掛けカレンダーのような見たこともない特大サイズ。写真集のような中身だった。先に購入した男性が「こんなのどうやって持って帰るの?鞄にも入らないし、家でもどうやって保管すればいいんだよー」と笑いながら持ち帰っていたのが可笑しかった。

今までにない、映画体験をさせてもらいました。
Thank you,Thank you, Thank you very much!

※※追記~物語について~※※
映像が素晴らしいので、観終わったあとはそこにばかり意識が向きがちだったが、少し時間がたって「物語」というものについて考えさせられた。

親が子に読み聞かせるように、物語る者と、それを聞く者が同じ空間でその物語を共有するとき、語り手は聞き手の反応を見ながら語り口を変えるし、聞き手の反応次第では、話の中身すら変えてしまうことがあるだろう。文字のない時代に生まれた神話や昔話も、そういった側面があったのではないか。神話や昔話は、語り手と聞き手が共同で創るもの。劇中で、途中から少女が物語のなかに登場するようになったのも、そう考えると納得がいく。
良き物語は、良き語り手と良き聞き手の共同作品。そういうことに気づかされる映画でもあった。

TS
トミーさんのコメント
2025年12月13日

あの下開きの扇子のベール、素晴らしい出来でした。ダーウィンの毛皮コートも。

トミー
ノーキッキングさんのコメント
2025年12月13日

共感ありがとうございました。
夢想世界の映像美に比べてストーリーが弱いという投稿が多いですが、私は、バランスは非常に良かったと思います。

ノーキッキング
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