ロードゲームのレビュー・感想・評価
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タランティーノはお喋りがお好き
長距離トラック運転手が目撃した緑色のバンに乗った女性がバラバラ死体となって発見された事で、独自にバンを追跡をするが…
とにかく主人公の運転手がよく喋る。飼っているディンゴ相手に独り言をすれば、序盤で乗せた(というか無理矢理乗りこんできた)女性と他愛のないクイズをしたりと、まぁベラベラし放題。タランティーノが愛する作品の1本に挙げているとの事だが、彼の作品にダイアローグ劇が多いのも納得できるというもの。
宣伝にもあるようにヒッチコックの『裏窓』にインスパイアされたプロットで、劇伴もバーナード・ハーマンっぽい。一方でスピルバーグの『激突!』テイストも感じる。表面上はスリラーだが随所でスラップスティックコメディ要素もあり、のんびりテイストのオーストラリア映画らしいともいえるが、お話としては凡庸。密室劇の『裏窓』をロードムービーに展開できたあたりは上手いけど、もうちょっとクライマックスはひねってほしかったかな。
運転手役は当初ショーン・コネリーを想定していたが、予算の都合でステイシー・キーチになったとか。まあベラベラ喋るコネリーというのも想像つかないので、これはこれで適役だったかなと。あとエグゼクティブプロデューサーに名を連ねているバーナード・シュワルツとは、ヒッチハイカー役で出ているジェイミー・リー・カーティスの実父トニー・カーティスの本名。
長らく埋もれていた傑作は、今なお一級のサスペンス・スリラー
【イントロダクション】
長距離トラックの運転手が、殺人鬼かもしれない男の乗った深緑のバンを追い、自らに掛けられた疑いを晴らす為に真相を究明するサスペンス・スリラー。
監督は、本作で高い評価を受けた事によって(興行的には失敗なれど)『サイコ2』(1983)の監督に抜擢されたオーストラリアの鬼才、リチャード・フランクリン。本作では敬愛するアルフレッド・ヒッチコック監督の『裏窓』(1954)にオマージュを捧げている。脚本に、リチャード監督とは『パトリック』(1978)以来2度目のタッグとなるエヴェレット・デ・ロッシュ。
【ストーリー】
オーストラリアの片田舎。長距離トラックの運転手であるパトリック・クイッド(ステイシー・キーチ)は、仕事の疲れを癒す為にモーテルにチェックインしようとした矢先、ストライキの影響で品薄となってしまった冷凍豚肉の運搬を急遽依頼される。彼が無線で連絡を取っている中、深緑のバンがモーテルの駐車場に現れる。見ると、助手席には先程クイッドが会社の規定違反になるからと乗せないでいたヒッチハイカーの女性が居た。通常報酬の倍額を提示された事で、仕事を引き受ける事にしたクイッドだったが、バンの男がチェックインした事でモーテルは満室となってしまう。クイッドは愛犬であるディンゴのボズウェルと共に車中泊を余儀なくされる。
翌朝、目を覚ましたクイッドはモーテルの部屋からゴミ捨て場を眺めているバンの男を目撃する。朝早くにも拘らず、ゴミ収集車がゴミを回収していく様子を終始眺めていた男の行動に不信感を抱きつつ、クイッドは食肉工場で冷凍豚肉を積載した荷台を引き取り、目的地であるパースへ向けて出発する。
道中、彼は会計士と思われる旦那と口うるさい妻を乗せた4人家族、おもちゃのボールを詰め込んだステーションワゴン、手製のヨットを積んだ用心深い男、新婚と思われる若い男女のワゴン車を目撃する。
孤独に車を走らせるクイッドだったが、彼のトラックの後ろを深緑のバンが追走して来ている事に気付く。バンに道を譲ったクイッドは、その先で会計士の夫に置き去りにされたフリタ(マリオン・エドワード)という女性に強引なヒッチハイクをされ、彼女を乗せる事になる。
2人は暇つぶしに「20の質問」をするが、フリタが深緑のバンを目撃して問題を出した事で空気が一変する。クイッドが離れた位置から双眼鏡で確認してみると、深緑のバンの男は荒野のど真ん中で穴を掘っており、黒いビニール袋とクーラーボックスに入った何かを埋めようとしていた。クイッドの存在に気付いたバンの男(グラント・ペイジ)は、荷物を埋める事なく去っていく。
その後、ロードハウスで婦人を降ろし、警察に通報しようとするクイッドだったが、繋がりが悪く思うように伝わらない。バンの男はクイッドが電話している隙にボズウェルを襲い、怒ったクイッドはバンを追い掛ける。しかし、途中ですれ違ったボートの男に道を阻まれてしまい、追い付けなくなってしまう。
そんな中、クイッドは道中度々目撃していたヒッチハイカーのパメラ(ジェイミー・リー・カーティス)を乗せる事にする。家出をしてきたというパメラは、父親が有名人である事を匂わせ、彼女もまたバンの男の正体に興味を持つ。すると、クイッドは地元警察から車を停めるよう指示され、質問を受ける。バンの男は、クイッドのトラックに記載されていたネームからモーテルのチェックインに彼の名前を使用しており、殺人事件の疑いの目が彼に向かっていたのだ。
やがて、クイッドは自らの疑いを晴らす為、パメラと共にバンの男を追う事になる。
【感想】
隠れた傑作サスペンスとして評価されていたが、当時は日本公開がされず、44年経った2025年に初の劇場公開(10月31日から)という事で、ネットニュースで本作の存在を知った。せっかくの機会であるのだから、出来れば劇場鑑賞がベストなのだろうが、U-NEXTで配信中と知り、また交通費を抽出するのも公開を待つのも面倒なので、配信にて鑑賞。
ゆったりとした雰囲気ながら、冒頭から不穏な空気が絶えず作品全体を流れている構成が見事で、登場人物のキャラクターやオチ含め、傑作サスペンスとして評価されるのも納得の1作だった。冒頭でしっかりとギターの弦で絞殺する瞬間を見せているにも拘らず、本当にバンの男が連続殺人犯なのか次第に分からなくなってくる構成も見事。
鑑賞後、すぐさま2度目の鑑賞に手が伸びたのだが、2回目だからこそ気付く部分もあり、粗い部分こそありつつも、全体として非常に完成度の高い1作だと言える。
賛否が分かれる主人公クイッドのまるでラジオDJかのような1人語りも、個人的にはキャラクターの魅力として好感が持てた。絶えず独り言を喋り、相棒は物言わぬディンゴのボズウェルのみ。彼のトラック運転手生活の孤独と、独り言で気を紛らわせなければやっていけない過酷さが窺い知れる絶妙なキャラ設定だと言える。演じたステイシー・キーチの渋い声、度々詩を引用する様子も非常に魅力的に感じられた。
パメラ役のジェイミー・リー・カーティスは、この当時既に『ハロウィン』シリーズでスクリーム・クイーンとして活躍中。今なお第一線でヒット作に出演している彼女だが、本作のような一種の巻き込まれ型ヒロインも良い。登場が全体の1/3を過ぎた辺りからであり、途中完全に姿を消す事になるのだが、にも拘らず存在感を放つ様子は見事。ヒッチハイク風景も、3度目でようやく顔が見えるという演出が◎。
隠れた名役者なのが、ボズウェル役のキラー君だ。大人しく可愛らしい序盤の姿から、クライマックスで主人を助ける事になる吠えるシーンまで、作品に彩りを与えてくれている。
殺人鬼の名前や動機が最後まで明かされないというのも好みである。動機はあくまでクイッドとパメラの連想ゲームでの考察に過ぎず、名前もクイッドによる勘違いである。
途中、クイッドがパメラと男が休憩所で行為に耽っており、彼女が男を「ハリー」と呼んだ事で、クイッドは殺人鬼の名前がハリーだと誤解するが、彼が去った後に映し出されるのは、序盤で見かけた結婚したての若い夫婦が乗ったバンであり、行為に耽っていたのはその夫婦である。そして、男はクイッドが自分のバンから離れた隙に、トラックの荷台に自分が始末したヒッチハイカーの肉体を冷凍豚肉に紛れ込ませる。しかし、ボズウェルだけはその様子に気付いており、カメラはそんな彼の様子をしっかりと捉えているのだ。
途中、砂漠で一晩を明かした翌朝、パメラが冗談として荷台の扉に書いた“Tomorrow’s Bacon(明日はベーコン)”というジョークが、ラストのオチにしっかりと関わってくる点も見事。
350体のはずの冷凍豚の数が、何故か352体ある(しかも、余分な2体だけ吊るすワイヤーの処理が雑)。メルボルンでの中継地点で、荷量が75キロオーバーしているというのも、人間1人分の体重として妥当であり、単にワイヤーが原因だとは言い切れない不穏さ。それにより、ラストで「食肉工場で人肉が捌かれ売られているかもしれない」と観客の不安を煽った上での、答え合わせとしての荷台の天井からの生首落下。そして、実はこの結末はオープニングタイトルで冷凍豚がズラリと並べられた食肉工場のシーンで既に暗示されていたという仕掛けの巧妙さ。
また、優れたカメラワークも顕著で、上空からクイッドのトラックを映した様子や、広大なオーストラリアの大地を捉えたショットが印象的。ギャグにも見えるフリタが断崖絶壁から落下しそうになるシーンも、その臨場感は抜群。
余談だが、作品の雰囲気から低予算作品に見える(実際、製作費は175万ドル)が、この製作費は当時のオーストラリア映画としては史上最高額だった模様。
【総評】
魅力的なキャラクター、凝った脚本とカメラワークは、公開当時興行的に爆死したのが信じられないくらい一級のサスペンスに仕上がっている。
劇場公開がされたら、交通費や鑑賞費を支払ってでも劇場に足を運んでみても良いかもしれないと感じた。
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