終わりの時のレビュー・感想・評価
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記憶のデトックス
スペイン映画にもまるでドイツ映画のような暗い影があるのだと知りました。
当然でしょうが、ベルリンの曇り空の下にあっても、スペインのリゾートの陽光の下にあっても人に陰は出来る。薄曇りなら薄い陰。強烈な日差しなら刺すような黒い陰。
人はたくさんの過去を引きずり、そして忘れ去りたい記憶の悪魔に足首を掴まれている。
本作、患者がドクターに向かって、自身のそれまでの人生のカルテを独白する、特異なスタイルの映画でした。
古きATG作品に似た、人の内面と苦悩にフォーカスする画面でした。
深夜トラックの運転手である僕としては、夜のハイウェイを走りながら、これから到達する前途よりも過ぎ去って置いてきた過去の物量のほうが遥かに大きくて、そして重たくて。
行けば行くほど黒い陰は心にのしかかってくるわけで。
自分に照らしてみても、そんな人生後半の心象風景を見せられる本作でしたね。
【 Erase Erase. 消して消して消して 】
熱いスープを浴びて死んだ弟も、ダイアナ妃に手作りケーキをスルーされた落胆も。
強烈なトラウマの過去から些細な傷心まで、リンダは終着駅を見出せないで彷徨っていました。
【 Erase Erase. 消して消して消して 】
医師は命令し、患者同士も同じ言葉をお互いにつぶやく。
「記憶」は、その人の一部ではなく、その人のすべてではないのか?
記憶が消去されるときその人も崩壊し、消えてしまう運命と知ってか知らずか。
結局、患者は医師に頼る事なく、ヘボいカウンセリングも功なく、
彼女は自分に決着を付けることで、それまでの記憶から自分を解放するのでした。
― 腐乱し、破裂し、魚の餌となって肉体が消滅する時、ようやく私は記憶を失うのだと。
むむむ。
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