劇場公開日 2025年10月24日

「巨匠マイク・リーにしか紡ぎえない有機的な人間模様」ハード・トゥルース 母の日に願うこと 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 巨匠マイク・リーにしか紡ぎえない有機的な人間模様

2025年10月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

この主人公は強烈だ。目覚めと共に怒りを爆発させ、買い物中でも、美容室にいる時でさえ周囲への攻撃が止まらない。まるで何かが視覚に入る前からすでに攻撃の準備が整っているかのよう。もしもあなたにとってこれが初めてのリー作品なら大きな衝撃を抱くはず。でも逆に巨匠リーをよく知る人は、一向にやまない口撃に笑みすら浮かべ、「この女性の心理では何が起こっているのか」と探究モードが起動していくことだろう。リー作品には脚本がない。キャストは皆、監督との数カ月に及ぶ共同作業でシチュエーションを与えられ、それに対する即興演技を練り上げ、徐々に作品としての一つの流れが形作られていく。だからこそ彼の映画は、有機的な感情の交錯こそが全ての要となるのだ。『秘密と嘘』以来となるマリアンヌの突き抜け方は相変わらず素晴らしい。何一つ”答え”が提示されないのもリー作品でおなじみ。暗転と同時に、突き放された余韻がズーンと沁み渡る。

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牛津厚信