「この夜が起点となって、ブリュッセルは更なるBLM運動の熱に焦がれていく」ナイトコール Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
この夜が起点となって、ブリュッセルは更なるBLM運動の熱に焦がれていく
2025.10.28 字幕 アップリンク京都
2024年のベルギー&フランス合作の映画(90分、G)
ある部屋の鍵を開けたことでトラブルに巻き込まれる青年を描いたスリラー映画
監督&脚本はミヒール・ブランシャール
原題は『La nuit se traîne』で「長く感じられる夜」、英題は『Night Call』で「夜の叫び声」という意味
物語の舞台は、2020年頃のベルギー・ブリュッセル
鍵屋でアルバイトをしている大学生のマディ(ジョナサン・フェルトレ)は、高級アパートの依頼を終えて休憩を取っていた
そこにクレール(ナターシャ・クリエフ)という若い女から依頼が入った
マディは彼女の指定する部屋へと向かい、彼女の言う通りに鍵を開けることになった
規定では身分証の提示と前金の予定だったが、クレールは財布は家の中にあると言い、マディは仕方なく先に鍵を開けることになった
中に入ったクレールは前金も身分証も後回しにして、ゴミ袋を取り出してどこかに行ってしまった
マディは身分証を確認するために部屋に入るもののどこにも見つからず、そうこうしているうちに見知らぬ男(マルコ・マース)が入ってきてしまう
男はサンドバッグから金が抜き取られていることを確認すると、有無を言わせずにマディに殴りかかった
マディは応戦せざるを得なくなり、やむを得ず、商売道具のドライバーで相手の首元を刺して殺してしまった
さらにその部屋に複数の男がやってきて、マディは隙をついて逃げるものの、逃走中に事故を起こしてしまい、男たちに捕まってしまうのである
物語は、マディが金の持ち主ヤニック(ロマン・デュリス)と対面し、起こったことを説明する様子が描かれていく
マディの証言を信用したヤニックは、彼の言う特徴を持つ女を探しに娼館のジーナ(クレール・ボドソン)の元を訪れる
だが、女を捜索している間に、マディがテオ(ジョナ・ブロケ)と何者かの会話を聞いてしまう
どうやらクレールとテオは繋がっているようで、一連の騒ぎはテオが主導となっていた
話を聞かれたことに気づいたテオは、マディの口をどのようにして封じるかを目論見始めるのである
映画は、早い段階でマディの状況を示し、解決策と深みへのハマり具合と言うものを描いていく
ヤニックのセリフをそのままクレールに引用して恥をかくなどの小ネタもありつつ、スリラーだけに留まらない要素を入れていた
一夜で起こったことを描いているので無駄がなく、間延びすることもなく、マディを取り巻くキャラも特徴的で見分けがつきやすかった
ヤニックに謀反がバレて困るテオの動きが小さくなると、代わりにレミ(トマ・ミュスタン)が暴れる展開になっていくのは面白い
最終的にマディの物的証拠によって解放されるのだが、一度自分を助けてくれたクレールを見殺しにはできなかった
そこで北駅へ向かったクレールを追って、その危険を知らせに行くことになったのである
ヤニックはブリュッセルのBLM運動の起点となった人物殺害に関係していて、テオが奪った金はその解決に使われるものだったことが示唆されている
翌朝にはどこかに届ける必要があり、それが期限となっていたが、クレールがアムステルダム行きの列車に乗ったことで、ヤニックの目論見は破綻してしまう
マディがどうなったのかはわからないが、衆人環視の中で白人警官が黒人青年を撃ったことで、BLM運動がさらに過激になってしまうのだろう
映画ではその背景が描かれていて、それゆえにマディの身柄は安全なところに移されるのではと予見できる
もっとも銃撃されたことで命がどうかと言うのはわからないのだが、この事件は別の思惑とともに取り上げられ、マディが無事だったとしても、さらなる渦中に放り込まれるのは間違いないのだろう
いずれにせよ、BLM運動について知っていないとラストのオチが分かりにくいのだが、映画内でほぼ説明されているので問題ないと思う
サミー・ノバと言う人物がブリュッセルで殺されたことに起因している運動のようで、それにヤニックが関わっていたことがわかればOKなのだろう
マディが黒人であることにも意味があり、BLM運動の最中なのに衆目の前で射撃をすると言う状況になってしまうところにシナリオの骨子があるように感じた
それゆえにBLM運動に関する知識がないとラストの深みがわかりにくいのかな、と思った

 
  
 
  
 