劇場公開日 2025年11月15日

「大人になってもゲンは私に宿り続ける」はだしのゲンはまだ怒っている ミカさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 大人になってもゲンは私に宿り続ける

2025年12月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

“はだしのゲン”を初めて読んだのは、小学校の図書室でした。私は小さな図書室でゲンと共に“被爆を体験”しました。ゲンを読んでいた数週間で、私は自分が住む場所に原爆を落とされる夢を見ました。家族が殺される夢を見ました。皮膚が垂れ下がっている人や黒い死体を夢の中で沢山見ました。その戦争の疑似体験は、40年間ずっと私の心の中にあり続けます。

偉い(と呼ばれる)人が、近隣国が危険だとどんなに私を煽っても、外国人が仕事を奪っていると演説しても、歴史認識が間違えていると指摘しても、私は絶対に彼らの話を信用しません。

なぜなら、私は小学校の図書室でゲンから「戦争や差別を煽る人間を絶対に信用するな」と聞いているからです。私がゲンと過ごした時間を舐めないで貰いたい。

平和教材から、ゲンが消えたって?それは、私の様に子供の時からゲンの魂が宿り続ける人間が邪魔になっているからではないでしょうか。描写が残酷だからとか時代に合わないとかは、後付けに過ぎません。

ゲンは中沢先生の分身であり、私の分身でもあり、世界中の庶民の分身なのです。庶民が全員ゲンになったら、戦争なんてできっこない。そう、だから感受性豊かな子供時代にゲンを読んで戦争が大嫌いな大人にならないと。大人はゲンをずっと未来に繋げ続けないと。

込山監督は、ノーラン監督の“オッペンハイマー”で被爆地への言及がないこと、勝者だけによって語られる原爆に反感を持ち、本作を制作したとのことでした。私も全く同感です。

残念なことばかりではありません。ジェームス・キャメロン監督は、「ゴースト・オブ・ヒロシマ」という原爆をテーマにした作品を着想しているとのことです。キャメロン監督は、「観客が原爆投下を体験したかのように感じられる映画を創りたい」「広島と長崎で起きたことを容赦なく描きたい」と話していました。

有名監督が被爆地の現実を世界に公開した時、ゲンの魂は世界中を飛び回ることができると思います。公開されたら、私の中にいるゲンと共に必ず観に行こうと思います。

ミカ