劇場公開日 2025年10月3日

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「予告編から想像するより絶対に面白い」3つのグノシエンヌ みきんきさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 予告編から想像するより絶対に面白い

2025年10月6日
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鑑賞方法:映画館

笑える

興奮

ドキドキ

江戸川乱歩没後60周年企画ということで、乱歩の小説を原案に設定を現代に変えてオリジナル解釈を加えた作品。
江戸川乱歩といっても推理小説ではなく、乱歩のもう一つの顔、怪奇、妄想、フェティシズム、狂気をにじませた作品を原案としていて、その奇妙な味が存分に感じられる。

3つのグノシエンヌは「一人二役」という、一人の男が妻の気を惹くために別人になりすまし妻の反応を楽しむ短編小説が原案。ただ、現代設定で別人になりすまして妻にバレないのは無理があるということだろう、映画では、売れない舞台俳優である夫が、自分が作り出した架空の人物を後輩役者に演じさせて妻を寝取らせようとする、という設定になっている。

予告編を見ただけではあまり感じなかったが、本編を見たら予想を良い意味で裏切り、本当に面白かった。
男女の絡みシーンもあり、そういったシーンがあまり得意ではないのでどうだろう…と思いながら見たが、このストーリーには確かに必要だし、予想外に笑えるところもあり、驚いた。男女の絡みをもう一人の男が見ている、その非日常感が滑稽で面白くて、絡みのシーンを見ながら映画館に笑い声が起こるという、多分人生に一度あるかないかの経験をした。倫理的には良くないであろうシーンを見て笑ってしまう、そんな少しの背徳感を共有する客席の奇妙な連帯感が楽しかった。

「寝取られ」「NTR」という言葉が一定の知名度を得ていることからも、人には、普通はやろうとは思わないけれど興味は持っているような欲望がある。だからこそのリアリティと、それを実行に移す非日常の按配が絶妙で面白い。
そして、最後まで観ると、ただそれだけのストーリーではないことが分かり、それがこの作品の味わいを何倍も濃くしているのだが、それはぜひ見て確かめてほしい。
ネタバレなしで見た方が絶対に面白いので。

メインとなる役者4名の演技もそれぞれ素晴らしく、ストーリーや衣装・小道具のディテールもしっかりしていて、予想を外れたストーリー展開だが、見終わった後はこの結末しかなかったと思えるし、役者陣の表情や声音を思い出して、ここはこういうことだったのかもしれない、と思いを馳せ、2回目を見たくなる。なかなかの傑作だと思う。お勧め。

役者陣は全員演技が良く、特に、松田凌のクズだけど妙に愛嬌があってそれで生きてきた感じの男が追い詰められていく様、その隣でコミカルとシリアスの割合が絶妙な岩男海史の組合せが素晴らしかった。安野澄の潔癖の感がある貞淑な妻が変わっていく様も、前迫莉亜のあっけらかんと生きているようで芯と影のあるキャラクターも良かった。

東京は、シネマート新宿と池袋シネマロサで、おそらく10/17まで

みきんき
uzさんのコメント
2025年10月9日

最後に明かされる哲郎に関する2,3個の事実で、また想像の幅が広がりましたね。
安野澄の清楚で禁欲的な色気もよかった。
暗い話と思いきや笑えるところも含めて、意外性のある秀作だと思います。

uz