あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。のレビュー・感想・評価
全1件を表示
あの〇〇ひとつで一生、生きていける
ゲイの少年がキラキラしたカリスマ的な同級生を好きになるが、告白できずにそれを引きずって大人になる、という物語だと思ってこの映画を見始めた。
ところが!!
最後になって、ドンジョンとカンヒャンが殴り合いのけんかになったあとのドンジョンのセリフ。
「どうして、君は僕と遊ぶの? 僕のあだ名を知ってる? 「花屋の女の子」なんだ。君もあいつらのように僕をからかっているんだろう。」
そのあと、数秒の間のあと、カンヒャンがドンジョンにキスする。
思い出すだけで胸が熱い。
カンヒャンが、君のことが好きだったからという言葉でなく、キスで応える。
苦しかったドンジョンはどれだけ喜びにあふれたことだろう。
なんのことはない、相思相愛だったのだ。
あのキス一つで一生、生きていける。
ドンジョンの苦悩は愛されなかったことではない。
カンヒャンの母が自殺して、取り乱して(おそらくは)父の車を破壊して警察に連行されるとき、自分が何もできなかったことに対する罪悪感を何十年も引きずっているのだ。
その後40歳を過ぎるまで二人は会えない。
カンヒャンが捕まってパトカーに乗った後のカンヒャンのセリフ、「また明日会おうな」が完結するのに数十年かかった。
最後のカンヒャンの「まるで昨日別れたようだ」というセリフがこの映画のすべてだ。
So long、 See you tomorrow (アメリカのWilliam Maxwellの小説名でもある)
邦題 「あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。」
この邦題はいただけない。愛は伝わっているではないか!!
「3つも“もしも”の世界。」があったのでストーリーは追えたけれども。
以下、理解のための整理。
---------------------------------------
韓国ドラマあるあるであるが、家族が三つ登場する。
家族1.ドンジョンの家族(ドンジョン、姉、母:癌、父:母に寄り添わず姉に嫌われている。ドンジョンに電話をかけ、金を送り付ける)
家族2.ドンジョンの姉の家族 (姉は母と同様胃がんになる 姪 父)
家族3.カンヒャンの家族 (母:自殺 父)
これだけで理解が大変なのに、パラレルワールド3つの物語の中で、それぞれの家族のあり方が変わる。
①テグで高校教師
②ソウルで大学教授
③プサンで父親
それぞれに重要な男性のわき役が登場する。
①.1 テグのゲイバーで出会う、ドンジョンの勤める高校の三年生の美男子
②.1 ソウルで子連れで働きながら大学に通うおじさん(ただし他の若い学生よりずっと勉強して優秀)
③.1 ドンジョンの離別した子供(鑑別所にいる)
韓国ドラマを見慣れた人たちには、この複雑な人間関係を理解するのは容易なのだろうか。
テグを舞台に40歳の教師としてのドンジョンの物語ではじまる。テグから出たことがない。
途中、テロップで2020年のソウルと画面が展開する。
え、ドンジョンって高校教師じゃなかったっけ?
高校で生徒たちにゲイであることを揶揄されて、辞めて大学に行きなおしたの?
と思ってしまった。2020年と表記で、ああ、これはパラレルワールドなのね、と理解するのに、だいぶ時間がかかってしまった。
テグの時と違って住む場所を変え、世界から大きな知見を得る。
ここで父に対してカミングアウトが起こる。
大学で学位をとったことより、ドンジョンが子をなすような「まともな男」であったことがうれしいと言う、金を渡すことしか自分の親としての役割を感じることができない父に対して、カミングアウトする。
さらに、プサンでのドンジョン。
プサンでは、女性のボスのもとで働く従業員としてのドンジョン。
自分が生まれたことが父の人生を狂わせたと思う子と、自分もそうであったという父(ドンジョン)の対話。
それぞれに登場するわき役の男性たちがずばらしい味を出しているのだが、さすがに情報量が多すぎないだろうか?
結局違う自分になったところで結論は変わらないのだ。
ドンジョンが、いじめっ子にサッカーボールをぶつけられて、
①しぶしぶドンジョンが蹴り返す
↓
②カンヒャンが、いじめっ子を無視して、明後日の方向にサッカーボールを蹴りだす
↓
③ドンジョン自身が、明後日の方向にサッカーボールを蹴る
この変化も素敵だ。
この映画において自分がゲイであるとカミングアウトすることは大きな意味を持たない。
自分は生きていていいのか?という苦悩にも焦点は当たっていない。
この映画の肝は、自分を愛してくれていた人に対して、十分に愛を返せなかったという思いだ。
邦題の「愛を伝えられなかった僕」に意味があるとすれば、ここだ。
僕は君が好きだったと伝えられなかったのではない。
もうすこし整理してほしかった。
ぎりぎりの評価★四つ。3.5でいいかも。
全1件を表示
