「展開のリアルさに引き込まれる」ひみつきちのつくりかた sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
展開のリアルさに引き込まれる
個人的に、年間ベスト10入りかもというくらいよかった。
だいぶ疎遠になっていた仲間たちが、同級生の突然死をきっかけに、物理的な手段も子ども時代に戻って、夏の6日間を使い「ひみつきち」を作ろうとする話。
ワクワクしながら純粋につくることを楽しむ段階から、次第にそれぞれの抱える問題が絡み合い、「子どもに戻りきれない大人な自分」と、「大人になりきれない子どもっぽさを抱えたままの自分」の両方に向き合わざるを得なくなる4人。
その展開のリアルさに、グッと引き込まれていく。
こういう、飾らない、ありのままの葛藤の中から「それでもよりよく生きていきたい」という気持ちを呼び起こしてくれる作品は、素直に大好き。
31歳でこの脚本を書き、編集も行ったという板橋知也監督。20歳も上のオッサンたちのあれこれを、こんなにリアルに思い描ける才能に心底驚いた。
上映館は多くないかもしれないし、若者には観られないタイプの作品だが、中年以上のオッサンたちにはきっと刺さると思う。オススメ!
<ここから内容に触れた備忘録>
・会話のやり取りが、どれもすばらしいのは、言外にその人の来し方がキチンと見て取れるから。
・思わず笑ってしまう場面が結構多く、そこがまた自然でよい。
・「最近、娘が話してくれなくて」みたいな本当に何気ない会話と、左足だけ踵の名前部分が塗りつぶされた上履きをちらっと映すだけで、「イジメに遭っていることを父に言えない娘」をパッと描き出す力量にうなった。
・野球どアホウ未亡人で怪演をみせた藤田健彦さん。本作では、打って変わった自然な演技で、本当にすばらしかった。
・「幸せかどうか」は、人に決められるものではないし、そう見られる人の苦悩もちゃんと救っているところがフェア。
・それぞれの仲直りの仕方がナイス。
・4人の男の話でありながら、家族があわせて描かれているところが、とてもよかった。