ハウス・オブ・ダイナマイトのレビュー・感想・評価
全119件中、1~20件目を表示
圧倒的なリアリティに満ちた緊迫ドラマ
爆発という要素はビグロー作品の一つの大きなテーマだが、吹き荒れる炎や爆風よりもその直前の一瞬の静寂こそ、彼女が醸し出す緊張感が最高潮に達する見せ場だ。太平洋上で発射された核ミサイルがアメリカへ向けて飛来する。そんな緊迫したシチュエーションを描く本作も、やはり爆発前の一瞬を描いた群像ドラマと言える。いたずらに破壊のカタルシスを求めるのではなく、この映画が描くのはあくまで「現実に直面する政府要人やスタッフたち」。それも彼らの過去や未来ではなく、あくまで焦点が当たるのはごく限られた数十分の「現在」の枠内だけ。そこでの行為や発言、表情を通じて、人の生き様を力強く炙り出す。もちろん、徹底した取材力はこれまで同様。登場人物や関連機関のディテール、さらにはこの最悪の事態に伴うシナリオも、我々に圧倒的リアリティを突きつける。世界は逃げ場なき火薬庫。綱渡りのような状況に手に汗握りつつ、背筋が寒くなる一作だ。
世界の現実をエンタメとして見られる、勉強んなる
心臓を掴まれるこの演出こそがキャスリン節
キャスリン・ビグローの真骨頂
観てよかった。
実話をベースにドキドキ、ハラハラさせるエンタメ作品に仕上げるのが大得意な女流監督だけに、間違いはなかった。まあ、これは実話ではないだろう(と思いたい)が、リアリティがありすぎる。現実の姿こそ滑稽で、ツッコミどころ満載の人間の本質が出る。それを切り取って「人間だもの」を見せていくのが、ホントにうまい。
危機に直面したら、あまりの緊張感に逃げ出したくなるし、頭を抱えて動けなくなったり吐いたりてしまうし、利己的なところをさらけ出してしまう。常識なら許されないが、本当の危険に遭遇したら、人はどう振る舞うのかというのを描きながら、圧倒的なリアリティで社会問題浮き上がらせる。
本作では、もし正体不明のICBMが飛んできて、あと20分で着弾するとしたらどうなるか、という今そこにある危機のシミュレーションだ。
「ハート・ロッカー」の緊迫感と、「ゼロ・ダーク・サーティ」の重圧感を、レベッカ・ファーガソンを安全保障局の大佐役でメインに据えて、危機管理に集まるメンバーの狼狽ぶりをたっぷり描く。
この一大事になって防衛設備の不完全さが露呈するし、高官や分析官はみな休暇や外出中。ゲティスバーグのお祭りへの休暇で不在だったり、ゴルフしてたり、バスケの大会へ顔出ししてたり。勤務していたFEMA(緊急事態管理庁)は、誤報かと確認して来るし、彼らと連絡取りあうのにもひと苦労で、もうてんやわんや。そうこうしているうちに時間は過ぎていき、軍の高官は反撃前提で準備を始めてしまうし。
まあ、現実はこんなもんだろう。
世界の危機に関わったことはないが、長年のサラリーマン生活の中で会社の大トラブルは何回かあり、狼狽えたひとたちが余計な心配をあれやこれや言うだけで、本質的な対応をすべき現場が混乱するのを何度も見てきた。それに比べれば、まだ指揮統制は保たれていたので、良心的な描き方だとは思う。
ま、これを観た米国民は、トランプさんならどうするか頭をよぎっただろう。日本ではどうなるか、どこかで日本版を作ってくれたら絶対観る。
私達が住む世界の現実を鋭く突きつける傑作
この作品はタイトル通り私達が爆弾の上でいかに爆弾を見ないで日々を生活してるんだということを緊張感たっぷりに教えてくれる映画です。
ただし物語の流れは他に類を見ない非常にチャンレジ的な事を行っている。大陸弾道弾が迫るなか、それに直接対応する職員達、その上役、そして一番上の大統領の各視点で緊迫する状況が描かれるのだが、各視点ではほぼ同じ内容が繰り返される。違う視点で新事実や裏側がわかったりするような事はほぼない。あっても各家庭環境が分かる程度。物語はほぼ同じ流れで起承転結でいうと起承、起承、起承で映画は終わる。つまり監督は娯楽的な面白さを目的としていない。監督は「最先端の最高の防衛力を持つアメリカでもが無駄のない現実的な行動を取っていても大陸弾道弾は防げないかもしれない」と現在の世界の状況をリアルに伝えてくるのだ。
最新の量子コンピューターは現在のコンピューターが一万とも一億年かかってもとけないといわれていたセキュリティーを6時間で解いてしまうが量子コンピューターにも対応したセキュリティーはまだ生まれていない。進化し続けるAIは瞬時に正確な判断と操作ができ、2つが組み合わさると最高のアメリカのセキュリティーでも突破される可能性がある。
大陸弾道弾は打ち上げている時が一番迎撃出来る可能性が高く、飛び立ってしまえばマッハ6を超え、落ちる前はマッハ10を超えてくるので非常に迎撃が難しいらしい。作中では2発の迎撃ミサイルしか撃たないので「たった2発?」と思うが一発が大気圏外まで届くロケットなのでとてもお高い。つまりそうバンバンと撃てるものではないので2発は現実的な数値なのだろう(実際は外れたら更に撃つらしいが)。つまり現在はソフトでもハードでも最強の矛ばかりが強く、最強の盾でも防ぐのは難しい状況にある。
ちょっと政治的な話になるが2024年11月の米中首脳会談で「核兵器の使用にはAIを関与させず人間がコントロールする」ことで合意した。しかし2025年10月の国連で「核兵器を統制するシステムに人間による管理と監視を維持するよう求める決議」が行われ賛成多数で採択されたが、アメリカを含む核保有国を中心とした8カ国は反対している。つまりアメリカはもうAIによる核を含む軍事的決定をシステムに組み込んでいる可能性が高いということだ。
この映画の上映時間さえあれば前触れなく世界は破滅する可能性があるのが現在の世界の現実らしい。
あとネタバレになるかもしれないので観た人だけこの先を読んで欲しいのですが、この作品は結末や結論がないように思いますがちゃんと結末も結論も描かれています。ただよくある映画のように「普通の」映画的演出と思って見逃しやすいです。分からない人はもう一度冒頭を観ればわかります。
起承転結でいうと結起承起承起承となんともチャレンジな構成ですが、現実を突きつけるこの作品には非常にマッチしてました。お見事。
切なく悲しい緊張感
今、そこにある危機を改めて認識させられる傑作
すでに様式美化した北朝鮮(と思しき)周辺から発射された一発のミサイル。具体的にどこから発射されたか不明だが、いつも通り日本海に落下するだろうと、アメリカ軍の各セクションは呑気に構えていた。ところが、そのミサイルは落下ルートを取らず、シカゴを目標に飛行し続けることに。
実際の有事が勃発したことで、各セクションはマニュアル通りに対応していくが、核搭載の可能性が高いミサイルがアメリカ本土に向かっているという、恐ろしい現実を突きつけられ、緩やかにパニックに陥っていく。
臨場感、緊迫感、そして現実感が半端ない、手に汗握るサスペンスフルな作品。ミサイル防衛室や司令室、国防長官、軍部、そして大統領と、ミサイル発見からその対処方法の決定までの様子が、各セクションごとに章立てて描かれており、ミサイルがひしひしと迫ってくる現実を、様々な角度で浮き彫りしていて、もう目はスクリーンに釘付けです。
たった一発のミサイルに、ここまで翻弄されちゃうのか? と思いつつも、でも核ミサイルであれば一大都市が丸ごと消滅するので、その恐怖は計り知れない。
その上、さらなる恐怖は「報復攻撃の選択」。やられたらやり返すことでの機能していた「核抑止力」だが、実際に「やり返す」選択を迫られたら、本当に選択できるのか? やり返したら「やり返される」可能性が生じて、それはまさに人類滅亡へのシナリオなんですよね。
この頭ではわかっていたけど、実感が乏しかった「核抑止力」の現実をifで描かれていて、むちゃくちゃ傑作です。
絵空事ではない…
自分の正義に従って動ける気がしない怖さ
劇場だと拍子抜けするから配信でどうぞ、という
緊張感!
相変わらず緊張感とストレスを映像化するの上手いなー、キャスリン・ビグロー監督。
アメリカへの核攻撃を阻止する政治家や国防機関のドタバタ劇を描くというまるで「24-TWENTY FOUR -」ですが、そこにはCTUやジャック・バウアーみたいなスーパーマンがいない。
(改めて、ほぼ1人で核攻撃を何回も阻止して来たジャック・バウアーは本当に凄かったんだなと思いました笑
※厳密にはテロ対策ユニットの話なので、今回の出所不明のICBMが!というのとは違う話ですが。)
ひたすら戦争のない平和な日常を過ごし、訓練しかやったことのない国防機関の人々についにその時が来て激震が走る!!という話だった。
実際ICBMの発射位置が割り出せないことや、GBIの迎撃成功率の低さなど、現実ではそんなことはない!などあると思いますが、元々アート界隈にいたビグロー監督らしく、音楽からタイトルの入れ方からデザインが行き渡っており、いつどこで爆破されてもおかしくないハウス・オブ・ダイナマイト(核兵器に囲まれた家)に暮らしているという現実を叩きつけるコンセプチュアルな作品だった。
アメリカでこんなにアワワ状態なら日本オワタ。18分の緊迫を3視点で描く上質なポリティカルスリラー
何の変哲もない朝が、一変。太平洋の向こう側からミサイルが発射され、あと18分でアメリカ本土に着弾してしまう! そんな極限状態の18分間を、政府関係者の3人の視点から描いたポリティカルスリラーです。
『ハート・ロッカー』、『ゼロ・ダーク・サーティ』のキャスリン・ビグロー監督の新作となれば、これはもう見るしかない! しかも、YOUTUBEのブラックホールでも、てらさわホークさんが絶賛していたので、期待値爆上がりで見ました。
開戦まで18分!手に汗握る緊迫感!
映画は、ミサイル発射の報を受け、事態に対処しようとする政府関係者たちの姿をリアルに描いています。
国防長官、大統領補佐官、そして現場の兵士たち。それぞれの立場から、限られた時間の中で最善の選択をしようと奔走する姿は、まさに手に汗握る展開です。
特に印象的だったのは、刻一刻と迫るタイムリミットの中で、情報が錯綜し、決断が二転三転する様子。実際にミサイルが飛んできた場合には、こんな状況になるんだろうなと、想像するだけでゾッとしました。
着弾回避なるか!?
結末は観客の想像力に委ねられる本作は、最後の着弾シーンをあえて描いていません。
ミサイルは着弾したのか、回避できたのか。それは観客の想像力に委ねられています。
この点については、賛否両論あるかもしれません。個人的には、着弾の有無を明確にしないことで、より深い余韻が残ったように感じました。
もし着弾していたら? もし回避できていたとしても、その後の世界はどうなるのか? 色々なことを考えさせられる終わり方でした。
結論:アメリカ、いや世界は終わるのか?
『ハウス・オブ・ダイナマイト』は、単なるパニック映画ではありません。
ミサイル発射という危機的状況を通して、現代社会が抱える問題点や、人間の本質を浮き彫りにした作品だと思います。
特に、危機的状況下における情報伝達の難しさや、政治的な駆け引きの愚かさなど、考えさせられる点は多かったです。
アメリカでもこんな状況なら、2本目のミサイルについて考える時間なんてないんだろうな、と思うと恐ろしいです。
ポリティカルスリラー好きは必見!
消化不良感は否めませんが、ポリティカルスリラー好きなら間違いなく楽しめる作品だと思います。
キャスリン・ビグロー監督ならではの、リアルで緊迫感あふれる演出は健在。
ぜひ、週末にでも、冷や汗をかきながら鑑賞してみてはいかがでしょうか。
何より恐ろしいのは
リアリティある緊迫感が半端なく、世界の軍事的均衡の脆さを突き付けられる作品でした。
穏やかな日常からの突然のタイムリミットで、こんな短い時間でどうするんだと…
3つの視点から描かれる構成の仕方も面白く、リモート先の状況がこうなっていたのかと分かる流れは成る程と。
現実と突き合わせると、最終決定権を握る人物の資質はどうなのか…
この作品の登場人物は概ね、何とか正確な情報を集めて最悪の結末を回避したいと考える、良識的で理性的な人々です。
しかし現実では、自分に都合の良いように情報を捻じ曲げたりなどするような、良識のなさそうな人物が核のボタンの最終決定権を握っているというのが、何よりも恐ろしいと思わされました。
世界の終わりのシミュレーション。
おそらく、ここまでやるんだから、アメリカ国内における設定は、かなりリアルなんだと思う。
決断するのも1人。対応する人も1人。交渉するのも1人。とてつもない重圧の中、全て1人に委ねられている。これもまたリアルなんだと思う。
この作品を振り返るようなリアルが起きないことを祈るばかり。
うま子
ドキュメンタリーを観ているような臨場感
「ある瞬間」までの数十分を、それぞれの現場を変えながら繰り返し見せていく。この映画の凄まじさは、ミサイル防衛大隊フォートグリーリー、ホワイトハウスのシチュエーションルーム、FEMAなどにいる職員たちが、ごくごく普通の生活者であることを短い情報の断片で鮮やかに描いてゆくところにある。そして彼らが普通の人間である事が強調されるほど、「その瞬間」の意思決定は人間のキャパシティを完全に超えてしまうということが浮き彫りになっていく。カメラはアメリカ戦略本部、安全保障会議、国防長官、そして最後は大統領と意思決定の中枢に迫っていく。大統領の代わりに電話に出ざるを得なかったNSC職員とロシア外相との会談は、命綱無しの綱渡りを見るような緊迫感がある。彼らの言葉選び方一つに、私たちの命がかかっているような、そんな緊迫感である。
登場人物たちは高いストレスにさらされながら、家族に電話をかける。それぞれ素晴らしい演技で印象に残るが、その中でも特に、これドキュメンタリーでは?と思わされた演技が、国防長官が娘に電話かけるシーンである。
カメラワークの力かもしれない。でも、素晴らしかった。彼があんな選択をしてしまうことへの説得力が、あのシーンにはあった。それを確認するためだけにでも、この映画は観て欲しい。
全119件中、1~20件目を表示










