「キャスリン・ビグローの真骨頂」ハウス・オブ・ダイナマイト AMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
キャスリン・ビグローの真骨頂
観てよかった。
実話をベースにドキドキ、ハラハラさせるエンタメ作品に仕上げるのが大得意な女流監督だけに、間違いはなかった。まあ、これは実話ではないだろう(と思いたい)が、リアリティがありすぎる。現実の姿こそ滑稽で、ツッコミどころ満載の人間の本質が出る。それを切り取って「人間だもの」を見せていくのが、ホントにうまい。
危機に直面したら、あまりの緊張感に逃げ出したくなるし、頭を抱えて動けなくなったり吐いたりてしまうし、利己的なところをさらけ出してしまう。常識なら許されないが、本当の危険に遭遇したら、人はどう振る舞うのかというのを描きながら、圧倒的なリアリティで社会問題浮き上がらせる。
本作では、もし正体不明のICBMが飛んできて、あと20分で着弾するとしたらどうなるか、という今そこにある危機のシミュレーションだ。
「ハート・ロッカー」の緊迫感と、「ゼロ・ダーク・サーティ」の重圧感を、レベッカ・ファーガソンを安全保障局の大佐役でメインに据えて、危機管理に集まるメンバーの狼狽ぶりをたっぷり描く。
この一大事になって防衛設備の不完全さが露呈するし、高官や分析官はみな休暇や外出中。ゲティスバーグのお祭りへの休暇で不在だったり、ゴルフしてたり、バスケの大会へ顔出ししてたり。勤務していたFEMA(緊急事態管理庁)は、誤報かと確認して来るし、彼らと連絡取りあうのにもひと苦労で、もうてんやわんや。そうこうしているうちに時間は過ぎていき、軍の高官は反撃前提で準備を始めてしまうし。
まあ、現実はこんなもんだろう。
世界の危機に関わったことはないが、長年のサラリーマン生活の中で会社の大トラブルは何回かあり、狼狽えたひとたちが余計な心配をあれやこれや言うだけで、本質的な対応をすべき現場が混乱するのを何度も見てきた。それに比べれば、まだ指揮統制は保たれていたので、良心的な描き方だとは思う。
ま、これを観た米国民は、トランプさんならどうするか頭をよぎっただろう。日本ではどうなるか、どこかで日本版を作ってくれたら絶対観る。
