「私達が住む世界の現実を鋭く突きつける傑作」ハウス・オブ・ダイナマイト ハチケンさんの映画レビュー(感想・評価)
私達が住む世界の現実を鋭く突きつける傑作
この作品はタイトル通り私達が爆弾の上でいかに爆弾を見ないで日々を生活してるんだということを緊張感たっぷりに教えてくれる映画です。
ただし物語の流れは他に類を見ない非常にチャンレジ的な事を行っている。大陸弾道弾が迫るなか、それに直接対応する職員達、その上役、そして一番上の大統領の各視点で緊迫する状況が描かれるのだが、各視点ではほぼ同じ内容が繰り返される。違う視点で新事実や裏側がわかったりするような事はほぼない。あっても各家庭環境が分かる程度。物語はほぼ同じ流れで起承転結でいうと起承、起承、起承で映画は終わる。つまり監督は娯楽的な面白さを目的としていない。監督は「最先端の最高の防衛力を持つアメリカでもが無駄のない現実的な行動を取っていても大陸弾道弾は防げないかもしれない」と現在の世界の状況をリアルに伝えてくるのだ。
最新の量子コンピューターは現在のコンピューターが一万とも一億年かかってもとけないといわれていたセキュリティーを6時間で解いてしまうが量子コンピューターにも対応したセキュリティーはまだ生まれていない。進化し続けるAIは瞬時に正確な判断と操作ができ、2つが組み合わさると最高のアメリカのセキュリティーでも突破される可能性がある。
大陸弾道弾は打ち上げている時が一番迎撃出来る可能性が高く、飛び立ってしまえばマッハ6を超え、落ちる前はマッハ10を超えてくるので非常に迎撃が難しいらしい。作中では2発の迎撃ミサイルしか撃たないので「たった2発?」と思うが一発が大気圏外まで届くロケットなのでとてもお高い。つまりそうバンバンと撃てるものではないので2発は現実的な数値なのだろう(実際は外れたら更に撃つらしいが)。つまり現在はソフトでもハードでも最強の矛ばかりが強く、最強の盾でも防ぐのは難しい状況にある。
ちょっと政治的な話になるが2024年11月の米中首脳会談で「核兵器の使用にはAIを関与させず人間がコントロールする」ことで合意した。しかし2025年10月の国連で「核兵器を統制するシステムに人間による管理と監視を維持するよう求める決議」が行われ賛成多数で採択されたが、アメリカを含む核保有国を中心とした8カ国は反対している。つまりアメリカはもうAIによる核を含む軍事的決定をシステムに組み込んでいる可能性が高いということだ。
この映画の上映時間さえあれば前触れなく世界は破滅する可能性があるのが現在の世界の現実らしい。
あとネタバレになるかもしれないので観た人だけこの先を読んで欲しいのですが、この作品は結末や結論がないように思いますがちゃんと結末も結論も描かれています。ただよくある映画のように「普通の」映画的演出と思って見逃しやすいです。分からない人はもう一度冒頭を観ればわかります。
起承転結でいうと結起承起承起承となんともチャレンジな構成ですが、現実を突きつけるこの作品には非常にマッチしてました。お見事。
