「限られた時間、情報のもとでなされる究極の判断、行動、意思決定」ハウス・オブ・ダイナマイト Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
限られた時間、情報のもとでなされる究極の判断、行動、意思決定
その昔、モノの本で、人の判断や行動の規範になっているのは、おおよそ理性3割、感情7割である旨、読んだことがあります。この割合の妥当性はともかくとして、ビジネス上の意思決定で、トップが部下それぞれをすべて人件費に換算して冷徹な判断でプロジェクトにゴーサインを出したりすると、「うちの社長、安月給でこき使いやがって」と部下から感情的な反発が返ってくるかもしれません。もっともビジネス上の意思決定なんぞ、ここ日本では稟議書とか決裁書とか呼ばれる書類を社内でぐるぐる回して、スタンプラリーよろしく何人かの部門長がハンコを押して、ラリー完了後プロジェクト開始なんてことをやってるわけですから、甘いと言えば甘いです。企業体質にもよるとは思いますが、大手企業ともなれば、スタンプラリーの旅程(?)はより長くなり、その意思決定によって始めたプロジェクトが失敗したところで「みんなでそれなりに時間かけて決定したことだから、俺っち、責任ないもんねーっ」と責任の所在はうやむや、失敗の根本原因もまともに分析できないなんてテイタラクが待っているかもしれません。
まあそれでも、せいぜいがカネをドブに捨てるようなマネをした、場合によっては倒産ぐらいまでのお話ですから、たかが知れたものです。状況が深刻になって社内で皆が眉間に皺を寄せて会議していると、誰からともなく「まあまあ、命まで取られるわけじゃないから」という話が出てきて、まあ皆さん、それなりのレベルでハラをくくるわけです。
ところが、この映画では意思決定の如何によっては億単位の生命が失われる可能性があるわけです。もう既に1千万程度の人命が失われる可能性が高い事態には追い込まれています。その先をどうするかについて、非常に限られた情報と時間の中で意思決定をしなければなりません。
始まりは日本海のどこかの海中から発射されたミサイルでした。潜水艦からの発射と推定されますが、アメリカはどこの国のものか特定できませんでした(この物語の重要なポイント)。そして、なんとそのミサイルはアメリカ大陸に向かって飛行しているのです。このままじゃ、シカゴのあたりに着弾してしまう。ええぃ、迎撃ミサイルで宇宙の藻屑にしてくれるわ、ズドーン。あれれ、ハズレちゃった。なにぃ、成功確率が61%とな、コイントスとあまり変わらないんじゃ…… そして、運命の時が刻一刻と近づいてくるのです。
ここで現在のこの状況を知り得る政府や軍の関係者の中には「感情7割」のほうを発動させ、緊張の続く職務の合間を縫って愛する人たちに連絡する者たちも出てきます。あの人とはもう二度と会えないとハラをくくったのでしょうか。国防長官はシカゴにいる娘に電話し、娘に最近付き合い始めた相手がいることを知り、感無量となります。とりあえず娘は幸せ感じている状態で死ねるとでも感じたのでしょうか。彼は終盤に緊張状態から一気に解放される手段を取ってしまうのですが。
そして、アメリカ合衆国大統領。彼は予想爆心地からできるだけ遠い安全な場所に移動する飛行機の中で、特殊な訓練を受けた軍人から、こういった場合での対応マニュアルの説明を受けます。ここで問題となってくるのがミサイル発射国が未だに不明であることです。今やシカゴ付近を目がけて一直線のミサイルを放った国は、二の矢、三の矢を放ってくるのが予想されますので叩いておかねばならぬ、でも、叩く相手がわからないときています。ロシアか中国か北朝鮮か、はたまた、イラン、ここはまだ核兵器の開発はできていないと思うけどなあ…… 大統領は説明してくれている軍人に年齢を訊いたり、家族状況を訊いたりもします。分かりやすい説明を求められた軍人は「レア、ミディアム、ウェルダンの3コースがあります」と答えたりもします……
話かわって、これ、Netflix の作品なんですね。なんか公開規模が小さいなあと感じつつ、劇場で観ていたら、見慣れた N のマークが出てきて気づきました。作劇がなかなか巧みで演出もよく、映画館で観てよかったと感じた作品でした。あまりリアルでは考えたくない話ですが、北朝鮮あたりがアメリカを狙うなら、距離の近い西海岸を狙うでしょうし、そもそも、発射してきた国がまったく特定できないなんてことは現在の偵察衛星の状況を考えるとあり得ないことだと思います。でも、そこはそれフィクション、まずは多少リアルからずらしながら大きな嘘を一発かましておいて、その中で遊びつつ、いくばくかのフィクション内リアリティを見せる、ということでNマークなかなかやるなと思いました。旧来型のハリウッド映画でこんなテーマをやると、なぜか状況に気づいてしまった一般市民の男女が出てきて「この先、どんなことが起きようとも私たちの愛は永遠よ」なんて、あまりにもエモーショナルな方向に進むかもしれませんし。
え、お前がアメリカ合衆国大統領なら、どんな決断をするかって……
ミディアムレアでお願いします。

