「超細分化された詳細なマニュアル」ハウス・オブ・ダイナマイト かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
超細分化された詳細なマニュアル
映画館で観る予告編以外に予備知識なく、地元の小さい映画館で観ました。(全然混んでません。)
「ハートロッカー」といい、この映画といい、タイトルが個性的。タイトルからは内容がわかりません。
観るまで隕石が激突するとか、宇宙人が襲来するとかそんな事態に際しての地球人の対策対応をリアルに描いたのかと思ってました。
とにかく、ドキュメンタリーのようなリアリティーと緊迫感、緊張感がすごい。
当初は北の将軍様の国にありがちな「かまってちゃん発射」だろうと思い込む人々、そこから安全バイアスもあっての楽観論をぶち破って進展する事態に従い緊迫感が高まっていくのがリアルタイムに近い感覚で迫ってくる。
どこまでリアルなのかはわかりませんが、世界最高の米軍の迎撃システムが成功率60数パーセント、まさに「コイントス」なのが意外だった。
同じ場面が数回繰り返され、場面を共有している人々のそれぞれの視点からの対応が描かれるが、どのシーンなのか、印象的な言葉から分かるようになっているのが上手い。
各人が懸命に役割を果たすなかで、精いっぱいの大事な人たちへ思いがある。焼け石に水かもだけど、それぞれの、人間性むき出しの切羽詰まった行動が切ない。何も知らない相手に電話をかけて、それぞれのお別れをする。小さい規則違反なんかどうでも良いから部屋の外の携帯を取り出して愛する人と最後の会話をする。国防長官の最期には驚いたが、このような事態を許してしまった自分を責めてのこと、または、今後起きうる世間からのバッシングの嵐を予想して悲観した、からなのだろうが、重大な局面での職務への責任を回避したか、もうどうでも良くなったのか、とも思ったりする。
多くの機関と膨大な従事者がいながらパニックにならず、カオス化しないのは、あらゆる機関と部署全体で共有する、細分化された詳細なマニュアルがあるから。
まず、フローチャート式で誰でも使いやすい。人々は当てはまるところに書かれた指示に従って専門家が指定した最適な仕事をするのみ、個人がどうすべきか迷ったり決断を求められる余白がないので極めて効率が良い。
葛藤はほぼ皆無、無駄な争いも起きず、力関係で決まることもない。
その中で、唯一、自らの意思で決断を下さなければいけないのが、アメリカ大統領。
(決定するのはただ一人だけというのも大変理にかなっている。)
声だけでなかなか登場しなかったので、「どう見てもとらんぷ」な人なんだろうと思っていたら違った。
人類史上、最も重い決断を迫られる大統領は、自分の不運を呪っているが職務を果たそうとする。でもおろおろと迷うばかり。
常に重そうな黒バッグを持って大統領の側で控えている軍人は、こういう事態になった場合、大統領に事態とマニュアルの説明をするためだけの特別任務だとは。こんな人まで配置するアメリカの国防組織の緻密さに恐れ入った。カバンの中にはあの有名な核発射ボタンとキーも入っているんでしょう。
しかしこれだと大統領より落ち着いている黒カバン氏の意思が全世界の行く末を決めてしまうことになりかねませんね。
てかむしろ、新聞読むだけマシ、な大統領一般なので、大統領の決定の体にして黒カバン氏のアドバイス=軍のスペシャリストの意思を通す仕様な気もする。
ラストは賛否あるでしょうが、私はあれで良かったと思う。
単に尺の問題はあるが、結果まで描くとしたらどこまでやればいいかということになるし、SFチックになってしまって、そこまで着々と築いてきた、ドキュメンタリーのようなリアリティで描かれた緊張感張り詰める世界が、テイストが一変して崩れてしまいそうなので。
そもそもキャスリン・ビグロー監督は、起承転結のあるストーリーを撮ったわけではなく、人類の危機の始まりから着弾までの20分にも足りない時間を切り取って、危機が刻々と迫るシチュエーションそのものと、その場その時にうごめく人々のありさまを見せたかったのではと思う。飛び抜けた主役がいない群像劇なのも、多分そこからきていると思う。
アメリカの国防組織の厚みと緻密さを目の当たりにして驚きの連続だった。
あのようなマニュアルがあることだけでなく、最先端の武器、装備、機材などのモノはいうまでもなく、ソフト面でも、あらゆる事態を想定し計算し、人の生理や心理、行動様式も考慮に入れて最短最善の効果が上がるように幾重にも手当てが施されているのが驚異的。
さすが世界一の軍事大国
その様を多くの人に見せることが、実はこの映画の裏テーマだったかも。
核は一発撃たれたら世界は終わりだと実感しました。
我々、まさに「ダイナマイト🧨の家」で辛うじて生きている、いつ突然終わるか分からない危機に、ずっと直面し続けているわけです。
コメント、ありがとうございます。レビューではちょっと捻って書いてありますが、私は企業の稟議制だとか政治の民主主義だとかを、いろいろと面倒くさい手続きは必要だけど、それぞれの感情を持った多くの人たちが前に進んでゆくためには、まあ比較的妥当な方法だろうと支持しています。でも、平時ならそれでいいのですが、パニック発生時のような時間が限られている場合にはそんなのは機能しなくなるんですよね。人間には「感情」という、AIにはない、とても大切で素晴らしいものだけど時によってはとても厄介なものが備わっています。そのおかげで、パニック時には心が揺れたりもします。その意味で、緊急対応時にすがることができる綿密なマニュアルを平時に準備しておくことはとても大切なことだと思います。でも、結局は人間ありき、なんですよね。私は大統領が「年齢は?」「家族は?」と問いかけるシーンがとても好きです。そのおかげで、妻あり子なし31歳のマニュアル説明青年は人として呼吸し始めたのだと思います
褒めてます! はじめは、がっこうのせんせーか、お堅い公務員の印象でしたが、全部言わなきゃ気が済まないのは誤解されたくないからデスよね。ユーモラスな知性派だし、いつもファンが待っているって感じ、いいなぁ。
国防長官、驚きましたよね💦人間らしい反応なのかもしれませんが、そもそもあの立ち位置の人はあのメンタルの人にやってもらいたくないとも思ってしまう自分もいます…確かに黒カバン持ち主の決定権大きそうですよね。あの状況だと。恐ろしい映画でした
コメントありがとうございました。
かばこさんのレビューに全面的に共感です。こういうラストが不明な作品はどうしても煮え切らないと感じてしまう人も一定数いますが、僕は基本的に色んな解釈ができる「余白が多めの作品」が好きなのでめっちゃツボでした。
どこから発射されたかが分かると世界情勢を完璧な整合性を持って描かざるを得なくなり、下手したらもうそれだけで映画が終わってしまうでしょうし、最後どうなるか分からないからこそ大統領の苦悩がクローズアップされたと思うのです。また国防長官の身投げはあり得ないように見えて実は一番あり得るような気もします。恐ろしいほどマニュアル化された仕組みの一方で、どれだけ時代が変わっても人間の「弱さ」は変わらないという対比も非常に印象深いものがありました。
前作「デトロイト」でも強く感じましたが、ビグロー監督は緊張感や緊迫感の描き方が秀逸なんですよね。女性監督でこういった持ち味の人はなかなか珍しいと思います。
ご報告いたします。
今朝、運営さんに状況を説明し、IPアドレスもその後伝えたら、復旧していました。セキュリティシステムの不備だったそうです。かばこさんは大丈夫でしたか?では。(ある、お世話になっているレビュアーさんに迷惑を掛けてしまいました・・。)
おはようございます。
私はパソコンからは入れますが、スマホから入れません・・。
ステルスは、迎撃のためですか。私は、迎撃ミサイルが危機管理室のスクリーンに出ていたので、報復と思いましたが、確かに仰る通りかもしれません。では。あー、もう少ししたら仕事です・・。
価格ドットコムから切り替えてから、共感を頂いた時に、E-Mailが届かなくなったりしましたが(運営に対処して貰いました。)、表示される英語を読むと、映画.comとE-Mailとの齟齬なのか、映画.comがセキュリティを上げた事の弊害が出ていると思います。マア、そのうちに回復するでしょう。では。
今晩は
私はPCからはコメント出来ますが、スマホでは映画.comにアクセス出来ずにいます。(英文が出て来る。)
映画.comには、状況は伝えてあります。では。







