「人類の愚かさと儚さ」ハウス・オブ・ダイナマイト luna33さんの映画レビュー(感想・評価)
人類の愚かさと儚さ
前作「デトロイト」が非常に印象深かったキャスリン・ビグロー監督の久々の新作ということもあってかなり期待していたが、結果はやはりビグロー監督らしい力作だった。
ストーリー展開をあえてICBMの検知から着弾までの約20分間に集約し、その同じ20分を3回違う視点で繰り返す事によって複雑な状況を観客に分かりやすく整理しながら見せ、かつ様々な登場人物の群像劇を合間にさりげなく描く構成が結果的に物語の「深み」を何層にも増していったように感じた。核兵器や戦争の怖さやシビアさだけでなく、個人のささやかな幸せや生身の人間の弱さなども併せて描くビグロー監督のバランス感覚の良さ。やっぱりこの人は上手いなあと思う。
そしておそらく賛否が大きく分かれるであろう、原因が何も解明されない展開と最終的にどうなったか何も分からないラスト。僕はこれには大賛成だ。結局のところビグロー監督は「何が起きたか」や「どうなったか」を描きたかったわけではなく、そこまでの「歪んだ成り立ち」や「人々の日常が消えるまで」を描きたかったのだろうと思っている。核兵器を使用しようがしまいが世界の在り方そのものが火薬にまみれているという重い現実があり、だからこそ「ハウス・オブ・ダイナマイト」というタイトルを付けたのだと思うのだ。つまりICBMはどこから飛んできたのか、大統領が最後にどんな決断を下したのか、シカゴが果たしてどうなったのか、アメリカは報復するのかしないのか、それらはこの映画において大した意味は持たないということだ。それが納得できるかどうかは人それぞれかなと思うが、僕はこの終わり方が非常に非常に好きだ。
少し話は逸れるが、昔の漫画で藤子不二雄の「異色短編集」というものがあり、その中に「ある日…」というエピソードがある。映像サークル映写会に集まった4人がそれぞれ自主制作した映像を見せ合うのだが、最後の佐久間と言う男が「ある日…」という作品を上映し始める。この作品はずっと人々の日常がランダムに描かれるだけで何も起きない。すると突然「プツン…」と上映が終わってしまう。他の参加者たちは「なんだこれ」「意味が分からない」と皆で佐久間をバカにするが、佐久間は「“ある日”突然の核戦争により当たり前にあった一庶民の生活が消滅する」という作品の主旨を説明するのだ。でも3人はそんな佐久間の主張に対して「唐突すぎる」「伏線もない」「説得力ないね」と受け付けようとしない。しかし佐久間も負けずに言い返す。「あんた達だって知ってるはずだ。世界を何度も焼き尽くすに十分な核ミサイル網が、今この瞬間に発射可能な状態で世界中に配置されているのを。網の密度は濃くなる一方なんだよ。保有国だってこの先どこまで増えるか。地球を燃やすにはもう、ほんのちょっとした火花で足りるんだ」と大声で力説する。そしてその直後、この漫画のラストはまさに「プツン…」と真っ白なページで突然終わる、という非常にブラックな作品だ。この話は僕の記憶の中で非常に強く印象に残っており、今回の「ハウス・オブ・ダイナマイト」もまさにこの漫画と同じ匂いのする作品だと思うのだ。ちなみにこの短編集は他にも強烈に面白い話がてんこ盛りなので未読の人にはぜひ強くお勧めしたい。
結論。今回のビグロー監督にも大変満足でした。
すみません、途中で送信してしまいました。
仰ること、共感です。
私もキャサリン・ビグロー監督は、結果や事の成り行きではなく、そのシチュエーションとうごめく人間の方を描きたかったんだろうと思いました。ほぼリアルタイムの緊張感、緊迫感が凄かったです。
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