「自分の国民すら信じないイスラエルという国」壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記 KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の国民すら信じないイスラエルという国
もと朝日新聞記者のジャーナリスト川上さんによる記録映画。長年取材してきた経験からも2023年10月以降のガザ戦争は衝撃だったといい、その背景を知るべく2024年にイスラエルとパレスチナに入った。
だが、ガザを直接描く映像ではない。ヨルダン川西岸地域の都市ヘブロン、それに『ノー・アザー・ランド』で描かれた村、マサーフェル・ヤッタに向かう。
商店を営むアラブ人、イスラム教のモスク、羊飼いの若者らに川上さんがいつも同じアラビア語で話しかける。あとでその種の言葉を調べてみると「アッサラーム・アライクム」だろうか。もう一度見ることができたらメモしたい。
挨拶はとても緊張感がある場面だが、行く先々の人々が「アラビア語を話すのか?」と驚きながら受け入れてくれるのがわかる。パレスチナの家族には子どもが多く、名前を尋ねては川上さんが丁寧に繰り返す。こうやって人どうしの信頼を築いていくのだ。
やはり入植地の場面は息苦しい。平和に暮らしているだけの住居(とても簡素なものだが)を、建てたばかりの学校を、ブルドーザーで破壊しにくるイスラエル兵。「なぜ?」という問いに答えがないまま見続けることがつらい。
映画の後半、意外なことにイスラエル人の有志団体が入植地を訪ね、人としてのかかわりを築いていることに救われる。兵役拒否する若者もまたアラブ人のもとで宿泊し、これから軍の刑務所に入る運命と告げてきたという。
このようなパーソナルなつながりは希望だ。しかし普通のイスラエル人こそ、パレスチナでの非道な現実を知ろうとしないという状況は変わらない。
思うに、国民を恐怖で煽り、「同胞は野蛮なテロ組織と闘っている」という幻想を植え付ける。この国は、パレスチナだけではなく自国民をも人として信じていない。そういうやりかたで権力を維持しているのではないか。
ガザ戦争を起点にしている映画だが、ガザは描かれず、イスラエルが何十年も前から続けている、人間や地域の破壊を描く。自分もこれまで知らなかったことを恥じる。しかし2025年10月現在、事態は知らないでは済まされない域に達している。
