「このアングルをずっと維持しつつ走りまくったカメラマンはすごいと思う」三谷幸喜「おい、太宰」劇場版 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
このアングルをずっと維持しつつ走りまくったカメラマンはすごいと思う
2025.7.12 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(101分、G)
WOWOWドラマ『おい、太宰』を劇場版に手直ししたコメディドラマ
監督&脚本は三谷幸喜
物語の舞台は、神奈川県鎌倉市
妻・美代子(宮澤エマ)の友人の結婚式に参加していた小室健作(田中圭)は、東京のテレビ局で放送作家として活躍し、太宰治を敬愛していた
式を終えた二人はバス停を探すものの、全く見つかる気配はない
あたりを見回すと、携帯電話で話している地元民・打雷(梶原善)ぐらいしか見当たらず、健作はやむを得ずに彼に声をかけることにした
なんとかバス停の場所を教えてもらった二人だったが、その場所が「八里ケ浜」だと知ると、健介のテンションが爆上がりしてしまう
それは、この浜がかつて太宰治(松山ケンイチ)が恋人・矢部トミ子(小池栄子)と心中をした場所で、縁のある土地として有名な場所だった
浮き足だった健作は浜を散策するのだが、そこには道を教えてくれた漁師とそっくりな男がいた
彼は漁師の話し相手だった兄(梶原善)で、健作はそれとなくお母さんに会ってあげたら良いのでは、とアドバイスをした
その後、漁師の兄から昔話を聞かされた健作は、そこに奇妙な洞窟があることを知る
興味本位でその洞窟に入った健作は、その先にある浜に降り立つことになった
そして、そこにも漁師とその兄とそっくりな男がいて、彼は兄弟の父であることがわかった
さらに、その向こうには見慣れぬ男女がいたのだが、健作はその二人が太宰治と当時の恋人・トミ子だと感じていた
テンションがさらに上がる健作だったが、その日は太宰が無理心中を図った日であることを知っていて、それを止めるべきかどうかを考え始める
だが、歴史を変えることで影響が出ることを懸念してしまう
それでも、太宰が生き残り、トミ子だけが死んでしまったことを知る健作は、それを止めようと考え始めてしまうのである
映画は、ドラマ版を編集したもので、ワンシーンワンカットが売りの作品となっている
おそらくは、洞窟を行き来するシーンで切り替わるのだと思うのだが、すごいロケーションを見つけたものだなあと思った
歴史を知っている者が関わりを持つことによって、人道的な側面から改変を行うというものなのだが、運命決定論的な考えだと、健作に出会ったことで心中を起こしたとも言えるし、彼のアドバイスによって「人間失格」の執筆に至ったようにも思える
ひたすらテンションの高い健作と、冷静な妻という構図で、夫の意味不明な言葉を受けても「とりあえず水」というのは面白い
そんな彼女が夫の浮気?を知って激昂する部分は面白くて、女同士のマウント合戦というのも見応えがあった
基本的に役者の演技力に頼っている作品だが、アホな話を真面目に演じているところは面白い
スマホを見ても動じない太宰とか、演じている上でおかしいなと思うことはたくさんあったと思うけど、強引なシナリオに食らいついているところも良かったと思う
ワンシーンワンカットが売りの作品で、編集というものが入っていないので、アドリブっぽくなって、無駄な会話劇になっているところもそのまま見ることができる
この部分がテンポロスになっているのは否めないのだが、ドラマ版を好んでいる人には問題ないと思う
逆に編集バリバリの映画とかが好きだと退屈に思えてしまうので、好みが分かれる作品だったのかな、と思った
自分のことを知っていたことで驚きまくる打雷親子と、ほぼスルーする太宰、深く考えてはいないトミ子というのは面白い配置で、リアリティは一切無視しているところも潔い
打雷親子が唯一のバッティング可能キャラだったが、無理やりさせない構成も力技だった
それにしても田中圭は過去イチくらいに走り回っていたような気がする
メインカメラも大変で、その他のスタッフとかも大変だったと思う
メイキングもすっごい楽しめると思うので、なんらかの機会で放送したら良いのになあと思った
いずれにせよ、途中でスーツを脱ぎ捨てたのは暑すぎて耐えられなかったのかなとか、梶原善はどうやって着替えて移動したのかとか、裏方の方が気になる映画だった
前半の会話劇が少しかったるいのと、教師親子の話は演者の休憩時間みたいな扱いに思えたのは許容するところなんだろう
個人的にツボったのは、トミ子がワイヤレスイヤホンで音楽を聴くシーンの動きだろうか
ちょいちょい噛んでくる梶原善も良い味を出していたので、そういったところに救われている映画なのかな、と思った