「結局ファミリー礼賛に終わる。そしてパーフィディアこそ変態。追記あり」ワン・バトル・アフター・アナザー ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)
結局ファミリー礼賛に終わる。そしてパーフィディアこそ変態。追記あり
冒頭で、パーフィディア(ボブの妻)が最初、ロックジョーを煽(あお)って「勃たせろ」と迫る。
驚いた。
そしてロックジョーは実際に勃起する。なんだこれは!で映画は始まる。
ロックジョーの変態さが強調されがちだが、実は最初に欲情しているのはパーフィディアだ。
パーフィディアもロックジョーも命を削るぎりぎりの状況で性的に興奮している。
パーフィディアはボブに対しても、戦闘の最中に「ファックして!」とせがむ。
このような特殊中の特殊な性癖を互いに満たすことのできる相手を見つけることは通常不可能だ。
パーフィディアが心底欲情しているのはボブではなく、ロックジョーだ。
妊娠したおなかの子の父親がボブだということに最初から違和感があった。
欲情の結果として、父親はロックジョーこそふさわしいと言わざるを得ない。
全編にわたって「ファック」(ちくしょー!)がこれでもかと繰り返されるが、この物語を動かすエネルギーは「ファック!」にあるように思える。
ロックジョーは黒人女性が好みだというが、実は人種よりもこの性癖の共通こそが重要だと思う。
もちろんそこには「愛」などない。
ロックジョーはウィラが自分の実の娘であると理解したのち彼女を殺そうとする。
そして、パーフィディアが仲間を裏切る背景にロックジョーへの欲情がある。
戦いの原動力は実は「欲情」にあったとしたら、実にひどい映画だ。
なぜ戦うのか、それは「気持ちがいいからだ」というひどい話。
「クリスマス・アドベンチャーズ・クラブ」は白人至上主義でとんでもない組織だが、対する「フレンチ75」(カクテルの名前、由来は、第一次世界大戦中にフランス軍が使用していた75mm野砲)も暴力組織だ。ありていに言ってテロ組織である。
いわゆるアメリカの陰謀論を体現していて、双方の陣営にカタルシスをもたらす構造になっている。
そりゃあ、アメリカで大ヒットしますね。
パーフィディアは妊娠中も戦闘を繰り返し、娘が生まれた後に普通の世界に行ってしまったボブに不満たらたらの最低の母として最初描かれる。
それが最後には「ママはあなたのことを愛していたの。」という手紙を、実は自分の娘ではないと知らないボブの前で、こともあろうにウィラに読ませる。
ウィラは目の前の男が自分の実の父でないことを知っている。
だからこそボブの愛は深いともいえるが、ボブはそれを知らないのだ。
噴飯ものだ。
あわれなボブ。
どうしても、ハリウッドは「家族の絆の美しさ」を外せないようだ。お決まりですね。
ただ、ストーリーはわかりやすく、謎も少なく、ディカプリオの、だめ中年の演技はすばらしく、アクションもテンポ感も素晴らしい。
まったく飽きなかった。
センセイは「フレンチ75」のメンバーではなさそうだが、義をもって行動するさまは見ていて気持ちがよい。
ロックジョーは最後に「クリスマス・アドベンチャーズ・クラブ」に殺される。
観客は安心だ。
エンターテインメントとしては最上のものなのだろう。
この映画に、トランプの移民政策への皮肉など読み込んで、実は社会派の物語だと解釈するのは私は嫌だ。
アメリカの抱えるストレス(共和党、民主党ともに)を背景にこの映画がアメリカで大ヒットしているというような分析は面白いかもしれないが、だいぶ下品だと思う。
突っ込みどころ満載の映画だが、それでもエンターテインメントとしては最良だと思う。
評価3.5でもよいのだが、ディカプリオのすばらしさに4.0にしようと思った。
追記
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ロックジョーはクリスマス・アドベンチャー・クラブによって2度殺される。
かつて奴隷であった黒人とセックスすることは不道徳なことであった。
家畜とセックスするのはおぞましいという感覚なのだ。
ロックジョーへの憎しみの深さが、実は全編の中でもっともおぞましいと言える。
ここは強調されて良い。
ここでも「欲情」がキーだ。
ロックジョーが最初の銃撃で死なずゾンビのように生還する。
それは「ロックジョー的なもの」が根絶しがたいことの暗喩であろう。
ロックジョー的なものとは何か?
案外複雑である。
単純に人種差別の象徴ではない。
それはクリスマス・アドベンチャー・クラブだ。
ロックジョーはこの秘密結社に殺されるのだから。
結構、読みがぃのある映画なのかも。
共感ありがとうございます。
両親が過激な特殊性癖の持ち主だと、Wで血を引いている娘が心配になりますが、そういう相手を見つけて双方幸せならそれでもいいような気がしますね。
共感ありがとうございました。
もうネタ切れの米映画。配給元が契約している保険会社のダメ出しで監督もコントロールされる時代。興収アップのためなら何でもやる………
★共感ボタンありがとうございました。
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大変面白く読ませていただきました。
作品の過激な性表現を“変態性”として片付けず、「欲情」そのものを戦いの原動力として読み解く視点が鋭いと感じました。確かに、この映画では暴力や倫理ではなく、むしろ“生への衝動”がストーリーを動かしているように感じます。その点で、パーフィディアとロックジョーの関係は、愛や倫理を超えた“共犯的興奮”として描かれているのかもしれません。
また、「家族の絆」への回収をハリウッド的お約束として笑い飛ばすくだりにも共感しました。どれだけ歪んだ欲望を描いても、最後には“家族愛”で締める──まさにアメリカ映画の免罪符ですね。
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