「何も成し遂げない父親の物語」ワン・バトル・アフター・アナザー Tiny-Escobarさんの映画レビュー(感想・評価)
何も成し遂げない父親の物語
感情から社会情勢まで盛りだくさんで、すごい映画でした。
ポールトーマスアンダーソンはアクション映画の監督といった風情ではないですが、パンチドランクラブの車襲撃シーンや、ゼアウィルビーブラッドのタコ殴りなど、暴力描写は飛び抜けている印象があります。
今回、主人公が左派の革命家で、追手も思想つよつよの暴力至上主義者ということもあり、銃弾が飛び交う率高めで楽しませてもらいました。
ロックジョーの持つSIG MCX SPEARや、部下が持つガイズリーのURGアッパーが載ったM4に、銃が好きな人間としては目を見開いて集中する場面が目白押しです。
同時に、そういう『自分が愛してやまないこと』に対して、空しさを覚えるストーリーでもありました。
結局、相手の息の根を止める以外に方法はないんだなと。
思想がどれだけ立派でも、相手が最後に見たのはあくまで銃口であり、そこから飛び出す銃弾には思想はありません。大義のために撃った9㎜も、面白半分で撃った9㎜も、相手にもたらす効果は全く同じです。
しかもフレンチ75の面々は、センセイのように国外退去の危機に遭っている当事者ではなく、そういう人たちに手を貸すために敢えて安全圏から脱出した人たちです。
ハリウッド映画がこのような一見『利他的な行為』を美化しがちな中、この映画の突き放し方は見事で、ラッシュ時の交通整理のような群像劇を描いてきたポールトーマスアンダーソンならではの塩梅でした。
この映画では、リベラルも保守も相当滑稽に描かれています。
余計なイキリムーブからいらない尾ひれが無限にくっついてくるペルフェディア。
※綴りはPerfidiaですが、そのまんま『裏切り』という意味なので、なかなかのキラキラネームです。
戦いを挑むと必ず裏目に出るか、何も解決できない主人公のボブ。
そして、革命を信じているフレンチ75のその他大勢。
最終的に娘のウィラは、追手とはいえ人を殺す羽目になりました。
しかも、父親はロックジョーです。全てを売り渡した母親からの手紙では、馴染みのない『本名』まで知る羽目になります。
無関係でいられたはずのひとりの人間に、どれだけ業を背負わせたら気が済むのか。
ウィラが強くて良かったと思いつつ、ボブに対しては、最後のオークランドのデモは留守番じゃなくてこっそりついていけよと、思ったりもしました。
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